震源から1000キロ、バンコクの高層ビルが倒壊した
今年3月28日、ミャンマー中部を震源とするマグニチュード7.7の地震が発生、震源から約1000キロ離れたタイの首都バンコクで建設中だった30階建ての超高層ビルが倒壊した。建設作業員らが倒壊に巻き込まれ、5月10日の捜索終了までに89人の死亡が確認されたという。
この地震によるバンコクの揺れの大きさは、体感や構造物への影響で測定する「改正メルカリ震度階」という指標で震度階級V(5)程度だったと推定される。日本で用いられる震度(気象庁震度階級)と直接的な比較はできないが、おおむね震度4程度に相当する揺れ方だ。
報道によると、倒壊したビルをめぐっては強度不足の鉄筋が使用された疑いがあるほか、エレベーターの構造にも欠陥があったとされ、タイ捜査当局は施工を担った中国国有ゼネコンの現地法人幹部らを逮捕している。日本のような頑強な耐震対策もなされていなかっただろう。それでも、震源から1000キロもの距離があり、中程度の揺れだった場所でビル倒壊にまで至ったのはなぜなのか。
大きな要因のひとつとして取りざたされているのが、「長周期地震動」だ。
「遠く」に広がり「長く」続く
長周期地震動とは、大きな地震で生じる「周期」(揺れが1往復するのにかかる時間)が長い揺れのことだ。地震の揺れは震源で発生する地震波が地表に伝わることで起こる。
一般的な地震では、P波と呼ばれる縦揺れの初期微動のあと、S波と言われる横揺れの主要動が到達し、ガタガタと建物を揺らす。
一方、長周期地震動はこのP波・S波とは異なる波だという。
工学院大学建築学部の久田嘉章教授(地震工学)はこう説明する。
「P波やS波を実体波と言いますが、震源が比較的浅く、規模の大きな地震では、実体波のあとに表面波と呼ばれる別の波が生じます。これが長周期地震動をもたらすもので、地面の近くをゆっくりと、そして遠くまで伝わっていきます。遅いスピードでやって来て、長時間揺れることが特徴です」


