仕事がうまくいかないとき、どこに原因があるのか。アドラー心理学の研究者として知られる岸見一郎さんは「結果が出なくても、劣等感に囚われてはいけない。アドラーは劣等感には二種類あると考えた」という――。

※本稿は、岸見一郎『「普通」につけるくすり』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

オフィスの窓から外を眺めている男性の後ろ姿
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人生を失速させる本当の正体

自分が特別だと思ってきた人は、これまでの人生でいい成績を取り、仕事でも成功してきたことでしょう。なので、ブレーキをかけたことはないと思うかもしれません。

それでも、これからもいい結果を出せるだろうかと不安になったり、自分は特別ではないかもしれないと思うような経験をしたりすると、そう思うことが課題に取り組むときのブレーキになりかねません。

特別であろうとする人は過剰に努力をしますが、どこか劣等感があります。この劣等感は仕事に取り組むときのブレーキになります。努力をしながらも、劣等感を持つことは、アクセルとブレーキを同時に踏むようなものです。

人生においては避けることができない課題があります。その一つが仕事です。生徒や学生であれば勉強です。アドラーは次のように言っています。

「自分に価値があると思えるときにだけ、勇気を持てる」(Adler Speaks)

「深淵の前に立つ恐怖」は評価への恐れ

勉強や仕事に取り組むのになぜ勇気が必要なのか。仕事をすれば結果が出て、評価されます。その結果に対して低い評価しかされなくても、自分には価値がある――仕事の場合は有能である――と思える人は課題に引き続き取り組むでしょう。

しかし、そのような評価が下されることを恐れ、仕事を前にして怯む人がいます。アドラーはそのような人について、先にも引いたように、次のように言っています。

「自分の力を試してみても、深淵の前に立っているように感じ、ショックの作用――自分に価値がないことがあらわになる恐れ――で退却し始める」(『生きる意味を求めて』)

どんな仕事もやすやすと達成できるわけではありません。大きな仕事をやり遂げるためには努力しなければなりませんが、取り組む仕事があまりに難しく到底やり遂げることができないと思って退却し始めるのではありません。深淵の前に立って「ショック」を感じる本当の理由は、「自分に価値がないことがあらわになる」ことを恐れるからです。