かけがえのない農業仲間に助けられ…
しかし、私が住んでいた埼玉県の所沢は、私の言葉で言えば「トカイナカ」。都心から2時間ほどの郊外の住宅地ながら農地が豊富な自然が豊かな地域です。周囲を見渡せば、耕作放棄地も点在していました。そこで妻が近所の使われていない農地を探し出して、持ち主に頼み込んで借りられることになりました。
ところが、土地を借りたのはよいものの農業に関しては、まったくの素人同然のまま。土を耕すにも悪戦苦闘する有様でした。
そこで見かねた近所の人が耕うん機を貸してくれました。これまで2週間もかかっていた作業がわずか30分で終わってしまう。手探りしながら覚える農作業は一事が万事苦労の連続でしたが、近所に住む仲間の助けを借りながら、ようやくひと通り覚えた頃、土地を貸してくれていた農家のおじいさんが病気で亡くなってしまいます。
トカイナカでも農地の相続は大きな問題です。私は畑からの年内の退去を余儀なくされました。
途方に暮れている私に周囲の農業仲間から「もうすぐあそこの土地が空きそうだからそっちを借りませんか?」と声をかけてもらいます。おかげで現在は1アール(約30坪)ほどの土地を借りることができて、20種類以上の野菜が収穫できるようになっています。
「資本主義の論理」から外れた人間関係を手に入れた
マイクロ農業を始めることで、私の生活は一変しました。雑草は一日で伸びますから、毎朝3時間ほどの農作業がルーティンとなり、完全に朝型人間になりました。私自身の一番の変化といえば、近所とのコミュニケーションが一気に増えたこと。2拠点生活から「トカイナカ」でのマイクロ農業で、畑をいじっているだけで、通りかかった近所の人が声をかけてくれるようになりました。
同じような趣味を持つ畑仲間の存在も欠かせません。彼らとの交流を通じて、収穫した野菜をおすそ分けしてもらったり、種や苗まで惜しみなく分けてくれたりします。さらには農作物の育て方についてもアドバイスをしてくれます。
私がガンになって入院し、いない時でも近所の畑仲間が畑の手入れをしていてくれました。もちろんボランティアです。「資本主義の論理」とは、まったく無縁の人間関係です。