「奴隷化」から逃れるヒント

おかげで収穫した作物で、自分たち家族の食事をまかなう「自産自消」ができるようになったのも、畑仲間の助けがあったからこそ。しかも、ここに住む畑仲間は私と同じ庶民ばかりです。会社のような上下関係もなければ、金銭のやりとりもない。土地の賃借料すらありません。

よく取材で「畑を借りるといくらかかりますか?」と聞かれますが、せいぜい収穫した野菜をおすそ分けする程度です。もはや収入減を気にしなくても家族3人なら十分に生活できることがわかりました。

ここに奴隷化から逃れるヒントがあるのではないか?

と、私は考えるようになりました。コロナ以降のスケジュールはスタジオ出演のラジオのために週に2、3日、短時間だけ東京に出かけるほかは、ずっと埼玉の家にいます。

結果的に「一人社会実験」は大成功でした。冬場こそ農作物は作れませんが、少なくとも食費は半分以下にすることは十分可能です。もちろんマイクロ農業だけで生計を維持していくのは不可能です。しかし、いざという時でも困らないだけの最低限の食べ物を自給自足できて、これほど心強いことはありません。

月13万円の年金だけで十分暮らしていける

定年後、農業を始めた人たちが口をそろえて言うのは「平凡な生活の中で感じる幸せ」です。農業には企業で働いていた時ほどの刺激がなく、毎日平凡な作業の繰り返しです。でも日々大きくなる作物の成長はうれしいし、手塩にかけて育てたモギタテの完熟トマトを口にした時のおいしさは何物にも代えがたい。そんな平凡な生活の中に感じる幸せが農業にはたくさんあります。

「身土不二」という言葉があります。人は自分が住んでいる土地でとれる旬なものを食べることが、体の健康にも自然にとってもいいということです。いわゆる「地産地消」です。「マイクロ農業」はこれをさらに一歩進めた「自産自消」なのです。

食料の「自産自消」に飽き足らず、私は太陽光パネルを設置した自家発電で、家中の電気をまかなうことにしました。すると、自宅はおろか払っている電気代よりも売電により受け取る金額の方が多くなっています。

私の一人社会実験の結果、1カ月当たりの生活費は家族3人で月額10万円は全然かかりませんでした。これは大きな発見でした。月額10万円で家族が暮らせるなら、夫婦の年金が月額13万円になったとしても十分に生活は可能です。政府が煽った「2000万円問題」も即座に解決します。新NISAをきっかけに投資に手を出して全財産を溶かすなんて愚かなリスクも回避できます。

東京都江東区豊洲の高層マンション
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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