親は子にどう接すればいいのか。公認心理師の柳川由美子さんは「親は無意識のうちに自分の感情、価値観を子どもに押しつけてしまいがちだ。優しさのつもりだった一言が、逆に子どもを苦しめているかもしれない」という――。
学校で勉強する学生
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志望大学を聞いた母が娘にかけた言葉

「私は娘のやりたいことを尊重したいのですが、娘はずっと迷走しています」

とおっしゃるクライアントのAさんは、高校生の娘さん、大学生の息子さんのお母さんです。娘さんが高校3年生になった時、「どこの大学を受けるかは、自分で決めていいよ」と伝えました。

娘さんは4歳上の従姉妹と仲が良く、大学生活の話をよく聞いていたこともあって彼女と同じ大学を第1志望にすると言ってきたそうです。「勉強ももっとがんばる」と張り切っていました。

ところが1年後、娘さんはその大学に合格しなかったどころか、受験すらしませんでした。行きたい大学が定まらず、勉強に身が入らないままだったこともあり、結局、浪人することになったのです。

実は娘さんの志望校を聞いた時、Aさんは心の中で「従姉妹とは通っている高校のレベルも違うのに」「もっと広い視野を持って大学を探してもらいたい。兄のようにさまざまなオープンキャンパスに参加したり、学校の先生にアドバイスをもらったりして慎重に決めてほしい」と考えていました。だから、娘さんに思わず「大丈夫なの?」「本当にそれでいいの?」と言ってしまったそうです。

「自主性を大切にしたい」と考えているが…

何度目かのカウンセリングで、娘さんを信頼していますか? と問うと、Aさんはこうおっしゃいました。

「そうですね……信頼はできていなかったです……。きっと自分だけではよい進路を見つけられない、そんな大学を受けてもきっと受からない、落ちたら傷ついてしまう、と思っていた気がします」

進路選択や学校生活の悩みを抱える子どもに対して、親御さんがよく口にするのがこの「自分で決めていいよ」という言葉です。

多くの親御さんが「子どもの自主性を大切にしたい」と考えており、その思いから進路や人生の選択に対してかける言葉なのだと思います。でも、いざ子どもが自分の意思を伝えた時、Aさんのように親としてつい問題点を指摘したり、不安な気持ちを口にしたりするケースは少なくありません。