年収700万円の手取りは、約550万円

50歳代は、収入も多いかもしれませんが、出ていくお金も多い世代です。

これを、年収700万円で家族を養う会社員の例で見てみましょう。

年収700万円の会社員だと、給与から、社会保険料が年間約110万円、所得税が約30万円、さらに住民税が約37万円引かれるので、社会保険料と税金だけで約177万円が引かれて、手取りは523万円となります。

ただし、扶養家族がいたら所得税や住民税はもう少し下がるので、手取りは550万円前後と思えばいいでしょう。この550万円をボーナスなしの12カ月で割ると、月約46万円。これで、家計のやりくりをしていくことになります。

では、この中からどれくらいのお金が家計運営費として出ていくのでしょうか。

総務省の家計調査(2023年)の4人家族の生活費の平均支出は32万3324万円。ですから、月約46万円の収入があれば、余裕で暮らせそうな気がします。ところが、ここには大きな落とし穴があります。

【図表2】4人家族の生活費の内訳
出典=総務省「家計調査家計収支編2人以上世帯詳細結果(2023年)」より編集部作成

マンションを買うとローン以外に維持管理費もかかる

家計調査では、住居費が約1.5万円となっています。これは、すでにローンのない親の住まいなどを譲り受けているケースだと思われます。

ただ、多くの人は、住宅ローンを組んでマイホームを購入していたり、マイホームを持たない人でも都会だと高い家賃を払わなくてはならないので、住居費が月1万5208円で済むというケースはほとんどないでしょう。

国土交通省の「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」を見ると、住宅ローンの平均返済額は、注文住宅で約14.5万円。分譲住宅で約10.6万円、分譲マンションで約12.3万円(ボーナス払いはなしとして計算)。つまり、住宅を購入するとそれだけの額が毎月家計から出ていくことになります。さらに固定資産税の支払いもあります。

ただ、マンションであれば、出費はローン分や固定資産税だけでは済みません。マンションを買うと、管理費や修繕積立金も毎月支払わなくてはなりません。こうした費用も考慮すると月約15万円の支払いになります。この時点で月約46万円の収入は、出費と同額になります。

「控除から手当」という実質増税

50代だと子どもが大学などに通っていて教育費がかかるというご家庭もあります。大学に在学中だと年間に子ども1人で100万円以上かかりますから、大学生の子どもが1人いる時点で、家計はあっけなくマイナスに転落します。

また、小学生から高校生の塾代などの教育費は、東京などだと月ひとり平均4万5000円と言われていますから、大学生以外の子どもが2人いるケースだと月約10万円、年間120万円近くかかり、家計はさらにマイナスになります。

こうした費用を含めて見ると、年収700万円でも余裕がないのは不思議ではありません。

ただし、16歳から22歳までは扶養控除がありますが、たとえば、0歳から15歳までの子どもがいる家庭であれば、2011年からその扶養控除が廃止されています。国の「控除から手当へ」という方針で、児童手当(子ども手当)が拡充されたためです(図表3)。

【図表3】新児童手当(完全移行後)の旧児童手当と比べた手取り収入の変化
出典=大和総研資本市場調査部制度調査課試算

控除というのは税金の仕組みの中に織り込まれているので、これを減らすのはなかなか難しい。けれど、手当については国の裁量のようなところがあるので、控除に比べて操作がしやすいという面があります。ですから、「控除から手当」にした時点で、増税が始まっていると思ってもいいでしょう。

実際に、大和総研では移行期の2010年を基本に試算を行っていて、年収700万円世帯の0〜12歳の子1人を持つ家庭では、手取り額は年1万1700円のマイナスです。その後、手当が縮小されたことで、このダメージは年収500万円程度の“普通の家庭”にも広がることになりました。

さらに、2025年度の「税制改正大綱」では、16歳から18歳の扶養控除を引き下げる案が示されました。所得税38万円を25万円に縮小、住民税33万円を12万円に縮小する案です。ただ、この改正案は、少数与党となったことや「103万円の壁」との絡みで2026年以降に持ち越しになりました。ただ、持ち越しただけなので、いずれ実質増税となる可能性は大です。