先日、日本を代表するある企業で、創造性についてお話しさせていただいた。聴衆は、開発や商品企画に携わっている方々。理解が速く、また反応も素晴らしく、日本経済の底力はまだまだ捨てたものではないとうれしくなった。
質疑応答の時間になって、ある方が発言された。「若いときのほうが、創造的だとよくいわれるが、本当のところはどうなのか?」。
確かに、世の中を変えるような革新的な発明、発見は、若いときになされることが多い、というイメージがある。キャリアの早い時期には新しいものを次々と生み出した人が、その後鳴かず飛ばずというケースも多い。一方で、例えば画家のパブロ・ピカソのように、晩年まで創造性を失わなかったケースもある。
年齢と創造性の関係は、どうなっているのか? 定年が延長されたり、何歳になっても働く意欲を持つ方が増えた現代の日本において、多くの人が関心を持つテーマだろう。
この問題を考えるうえで重要なポイントは、創造といっても、無から生まれるのではないということである。
私たちが体験したり、知識を得たり、スキルを身につけたりしたことは、大脳皮質の側頭連合野を中心に記憶として蓄えられる。
創造することは、思い出すことに似ている。何かを想起する際には、側頭連合野の記憶が、そのまま前頭葉に引き出される。一方、創造するということはすなわち、記憶が編集され、結びつきを変えて活用されるということである。
一見全く新しいもののようでも、実は、側頭連合野に蓄えられた記憶をもとにしている。ただ、結びつき、組み合わせが変化しているので、不連続であるかのように見えるだけなのである。