さて、年齢を重ねるということは、側頭連合野に、それだけたくさんの経験が蓄積されるということである。従って、その分、創造性のための素材も多くなることになる。それならば、若いときよりも、むしろ年を重ねた後のほうが、創造のための条件が整っているはずである。
ただし、年をとってから創造性を発揮するためには、2つの条件がある。1つは、創造する意欲を失わないこと。創造のためには、側頭連合野の素材が、前頭葉に引き出され、活用されなければならない。そのためには、前頭葉を中心とする、意欲の回路が十分に働かなくてはならない。
もう1つは、逆説的だが、自分自身の経験にとらわれないこと。側頭連合野に記憶が蓄積されるということは、創造するための素材になってくれると同時に、固定観念にとらわれてしまうリスクともなる。例えば、過去の成功体験にとらわれてしまうと、新しいことへのチャレンジができなくなる。
だから、年をとって、さまざまな経験を重ねることは、創造性のための素材が蓄えられる、という意味ではいいのだけれども、同時に、意欲を持ち、自分の経験にとらわれない冒険心を持つ必要があるのである。
「結論を申し上げます。意欲を持ち続け、自分の過去の経験にとらわれない老人は、最強だということです」
そのように私が回答を締めくくると、集まった社員の方々から笑いが起こった。
笑いも創造性の大切な要素である。ユーモアのセンスを持ってものごとを見ることは、心をやわらかくして、固定観念にとらわれないようにしてくれる。
日本が停滞しているというのも1つの固定観念。日本企業の底力を感じた1日だった。
(写真=T-STUDIO/AFLO)