犠牲者が多い区ワースト10

図表8に犠牲者の多い順に上位10区を示します。これには併せて死因、さらには重症者数、自力脱出困難者数も示しています。これらの区の多くは荒川沿い、および多摩川沿いにあります。これらの区はいずれも両河川沿いで地盤が軟らかく、図表4で全壊・焼失家屋の多い区と見事に一致しています。なお、23区及び多摩地区の市町村の被害想定は、東京都「首都直下地震等による東京の被害想定」(2022年5月)にありますので、興味のある方はこちらを参考にしていただけたらと思います。

ここで、阪神・淡路大震災との比較をしてみます。図表9がその比較結果です。

まず、火災発生件数は都心南部直下地震の方が阪神・淡路大震災の3.2倍、焼失家屋数は15.8倍になっています。阪神・淡路大震災の発生時はほとんど無風状態でした。それに対して都心南部直下地震は風速8メートル/秒ですから、かなり延焼することが考えられます。

次に火災による死者数を比較すると4.4倍と、焼失家屋数の15.8倍に対してかなり少なくなっています。さらに全死者数は0.96倍と、想定される都心南部直下地震の方が少ない数になっています。犠牲者数は少ないにこしたことはありませんが、火災による死者数、全死者数ともに少なすぎるのではないかと感じるのは私だけでしょうか。

複雑すぎて数字には表れない要素

以上の数字は、数字で表されるものだけを用いて計算されています。実際は、地震被害は非常に複雑で、数字に表されない要素がたくさんあります。以下にその例をいくつか紹介します。

①道路の被害に関して

救急活動や消火活動、物資の輸送に欠かせない道路ですが、被害想定に考慮されているのは道路の橋梁部分の落橋や亀裂、橋脚部分の亀裂等の被害箇所数であり、道路に隣接する街区での建物や電柱の倒壊、延焼火災や土砂崩れ、液状化などによる道路の閉塞、車線の逸脱や衝突等による交通事故等の影響は入っていません。

②鉄道の被害に関して

道路と同様に高架橋及び橋梁が対象となっており、沿線の建物倒壊、延焼火災に伴う架線の焼失、土砂崩れによる線路の閉塞、走行中の電車の脱線事故等の被災は入っていません。

③停電に関して

停電の想定には、発電所、変電所、および基幹送電網などの拠点的な施設・機能の被災は入っていません。

④水道の被害に関して

水道の被害には、水道管路以外の浄水施設などの基幹施設や、受水槽や給水管など利用者の給水設備の被災は入っていません。

三浦房紀『これから首都直下、南海トラフ巨大地震を経験する人たちへ』(KADOKAWA)
三浦房紀『これから首都直下、南海トラフ巨大地震を経験する人たちへ』(KADOKAWA)
⑤通信の被害に関して

通信に関しては、通信ビルなどの拠点施設や携帯電話基地局の被災、非常用電源の喪失等の被災は入っていません。

⑥沿岸地帯の工業地帯、コンビナートの被災に関して

沿岸地帯の工業地帯、コンビナートの被災も想定には入っていません。東日本大震災のときに千葉のコンビナートのタンクが爆発、タンク半分の破片は海の方へ飛びました。もしこれが陸側だったら大変な災害になっていた可能性があります。

これらのことを考えると、とても死者が約6150人で済むとは思えません。

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