都が想定する犠牲者は最大6150人
図表5は建物被害、ライフラインの被害をまとめて示したものです。人だけでなく、物にも甚大な被害が生じることが想定されています。
首都直下地震が起こると、最悪の場合直接被害だけでも113兆円を超えます。その経済的損失の影響は長期間にわたり、20年間で731兆円にも及ぶとの調査結果もあります。東京都の被害想定2022年5月25日に東京都が都の被害想定を公表しています。
東京都は2012年に「首都直下地震等による東京の被害想定」を策定し、その想定に基づき、様々な防災対策を推進してきました。その間、住宅の耐震化や不燃化などの取り組みが進められてきました。その一方で、高齢化の進行や単身世帯の増加など人口構造や世帯構成が変化してきたため、この10年間の様々な変化や最新の科学的知見を踏まえて、被害想定を見直しました。
図表6は全壊・焼失家屋の被害および人的被害を要因別にまとめたものです。この被害想定によると、倒壊した建物の下敷きになるなどで死者が一番多いのは冬の早朝で約4920人、火災は冬の夕方で約2480人、合計で一番多いのが冬の夕方で約6150人です。
これはこれで大変な数字なのですが、1995年の阪神・淡路大震災のときの約6430人より少ない数字となっています。皆さんはこの数字を多いと思うでしょうか、少ないと思うでしょうか。
都の数字はあくまで「地震発生直後」の数
もう少し詳しく見てみると、地震が起こると約8万2200戸の家が揺れや液状化で壊れるのに対して、大半の人が寝ている冬の早朝に地震が起こると、死者が約4920人、また火災で2万7410戸焼失するのに対して死者が約670人となっています。
ストーブ、台所で火を使うなども含めて最も火をよく使う冬の夕方は火災による焼失棟数が約11万8730棟に上るのに、火災による死者は約2480人と想定されています。
いかがでしょう。多分読者の皆さんは死者がこれくらいの数で済むのだろうか、という疑問を持たれると思います。その感覚は正しいと思います。実は、これは地震発生直後の数字なのです。時間の経過とともに間違いなく犠牲者の数は増えていきます。
表には⑪重症者数、⑬自力脱出困難者も示しています。救助活動をすぐに行うことができないと、また消火活動が追いつかず火災が延焼すると、この人たちは命を失うことになり死者数は増えていきます。さらに閉じ込めにつながるエレベータの台数も約2万2000台前後ですから、複数人が乗っている場合もあるため、自力脱出が困難な人数は台数では計り知れないものがあります。