10万人はくだらない犠牲者が出る
ここで注意が必要なのは、図表にある壊れた建物に閉じ込められ自力で脱出できない人の数⑨です。救助が進まない場合、残念ながらこの数字は死者数に加算されます。この数を死者合計数⑦に加えると、⑦+⑨は最悪の場合、「冬・深夜」で約9万人、「冬・夕」で約8万1000人、最も少ない「夏・昼」でも約6万人となります。
さらには負傷者数が10万人前後。この人たちも、特に重傷を負った人たちは医療体制が崩壊すると命を失うことになります。これらを考えると10万人を超える犠牲者が出ることが考えられるのではないでしょうか。
どの場合も死因で最も多いのが火災です。どこで火災による被害が大きいかを示したのが図表4です。
この図表は冬の夕方、風速8メートル/秒のときの全壊・焼失棟数を示したものです。ほぼ中央にある皇居は被害がなく、JR山手線の内側もそれほど被害は大きくありません。しかしながら山手線の外側は多くの全壊、焼失家屋が広い範囲にわたって分布しています。東京タワーや東京スカイツリー、東京都庁の展望室などから東京を眺めると、山手線の外側には木造住宅が密集していることがわかります。これが被害が大きくなると予想される理由です。
古い木造住宅を中心に犠牲者が出るおそれ
東京消防庁は、ポンプ車、救急車、はしご車等の消防車両、消防艇、消防ヘリコプター、消防ロボットなど約2000台(2023年4月現在)を配備して災害に備えていますが、地震によって同時に多くの場所から出火した場合、この数では不十分です。
しかも山手線外側の木造住宅密集地には、消防車が入れないところがたくさんあります。地元の人による初期消火に失敗した場合、燃えるに任せるしかありません。その場合、火災によって多くの犠牲者が出ることになります。
関東平野の冬は空気が非常に乾燥し、強いからっ風が吹くことがあります。想定の風速8メートル/秒以上の風が吹く可能性は十分あると考えられます。
またこの図表4では、工場地帯である東京湾沿岸部は無被害となっていますが、これは被害がないのではなく、データが少ないので想定できないのです。これらのことを考えると、もっと犠牲者が増えることが危惧されます。