※本稿は、ケリー・スターレット、ジュリエット・スターレット『すごい可動域』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
年を重ねても人生を自由に楽しめる身体
はじめに、あなたがどのくらい体を自由に動かすことができるかをテストしていただきたい。まず、床に何も置かれていない安全な場所に移動する。少し腰をかがめて片方の足をもう一方の足の前で交差させる。何にもつかまらずにそのまま膝を曲げ、お尻を床に下ろしていき、あぐらをかいて座る。
次に、あぐらをかいて座った姿勢から、バランスをとるために両手を前に伸ばして前かがみになり――可能であれば、手や膝を床についたり、何かを支えにしたりせずに――床から立ち上がる。
これであなたは今、「座って立ち上がるテスト」を受けたことになる。できただろうか? もしできなかったとしても心配しなくていい。
このように、支えなしで座ったり立ち上がったりできることは、あなたが動く体をもっているかどうかを見分ける方法になる。それは、長く生きられる体をもっているかどうかを判断する方法でもある。
「座って立ち上がるテスト」をここで紹介する理由は、座ったり立ち上がったりできることの意味を考えてもらいたかったからだ。これを「モビリティ」という。
「フィットネス」と同じように、「モビリティ」も内容が定まっていない用語だ。本書ではモビリティを、関節、筋肉、腱、靱帯、筋膜、神経系、脳、体内を走る血管系など、体を構成するすべてがいきいきと動いている状態と定義する。今いる場所だけでなく、人生そのものを自由に動き回ることを可能にする要素だ。
「座って立ち上がるテスト」2002人の結果は
「支えなしで、座って立ち上がる」。この簡単な動作ができるかどうかで、どれくらい生きられるかがわかるかもしれない。そう考えたブラジルとアメリカの研究者グループが、先ほどの「座って立ち上がるテスト」を、51歳から80歳までの男女2002人に行い、その6年後、テストした人たちがどのような状態にあるかを調べた結果が、2014年の『European Journal of Preventive Cardiology』誌に掲載されている。
この共同研究の結果、6年の間に、被験者の179人(ほぼ8パーセント)が死亡していた。6年前のデータと照らし合わせると、床から立ち上がったり座ったりできなかった人の死亡リスクが高いことがわかった。
また、テストで良い成績を収めた人ほどモビリティ能力(体を自由に動かす能力)が高いことが明らかになった。モビリティ能力が高い人は、そもそも転倒しにくくなり、総合的な健康状態が良好だった。
ご存じの通り、高齢者は転倒しやすい。骨折して寝たきりになり、そこから体調が悪化して死に至るケースも少なくない。転ばないように気をつけることは大事だが、この研究結果は、それよりも容易に座ったり立ち上がったりできる能力を維持することのほうが大切であることを示唆している。
支えなしで立ったり座ったりできることは、体が安定していて、しなやかで、効率的に動けることを意味する。また、体が硬くなりにくいので関節の痛みを避けることができる。それは、ほとんどの人が熱望するものではないだろうか?