息子には水泳を習わせていたこともあり、国立大学の体育専攻に推薦で合格できた。アウトドア好きの彼は伊豆七島の島あたりで、体育の教師をしながらのんびりと暮らすつもりだったらしい。

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無職の人が、もし働くとしたら、仕事上で重視することベスト5

これに、猛反対したのは夫(故・周英明氏)である。「勉強しないで大学に入るような安易な人生を考えるな」と言うのだ。結局、息子は浪人して別の大学に進み、商社マンになった。彼は最小限の努力で成果を得るような計算高いところがあり、開放的な家に育ったため物怖じしない性格でもある。教師になるよりも、実業のほうが遥かに向いていたと思う。

今の親は、子供の能力を冷静に見る観察眼を磨き、子供の選択に対して、時には「NO」ときっぱり言える賢明さと自信を持つ必要があるように感じる。そもそも、子供はいつまでも親のスネを齧っていられると思うから、「好きなことが見つからない」と甘ったれた言葉が口にできるのだろう。とりあえず食べていかなくてはならない状況なら、好き嫌いはさておき、収入を得る道を探しているはずである。

私自身、日本に来てから語学を教えて食べつないでいた時期がある。収入が生活を支え、留学資金もできると思うから、好きな仕事でなくてもやってきた。そうやって我慢を経験し、子供たちを育てながら人生を積み重ねてきた結果、娘の同僚の目にとまり、テレビに出していただくようになったのが59歳のとき。79歳となった今も全国を駆け回っているのである。

評論家 
金 美齢

1934年、台北生まれ。台湾民主化運動に携わる。早稲田大学講師、中華民国総統府国策顧問などを歴任。著書に『「鬼かあちゃん」のすすめ』など。
(構成=上島寿子 撮影=澁谷高晴)
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