無理なお願いをされたとき、何と返すのが正解か。日本在住のエジプト人、八十恵さんは「かなりの仕事量を振られたとき、日本だと『なんとかします』と答える人が多いのではないでしょうか。エジプト人は違います。『やります』でも『やりません』でもない、無敵ワードが存在するのです」という――。

※本稿は、八十恵『エジプト人の「いい加減」でがんばりすぎない生き方』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。

髪や肌を露出してはいけないのか

皆さんはエジプトと聞くとどんなイメージをおもちでしょうか?

もしかすると皆さんがイメージするエジプトと現代のエジプトのあいだには、ずいぶんギャップがあるのかもしれません。

たとえば2024年に開催されたパリオリンピックでは、エジプト代表の女子ビーチバレーの選手が全身をすっぽり覆うウェアでプレーしたことがニュースになりました。今でもエジプトの女性って肌の露出が許されないの?と思われた人もいたのではないでしょうか。それが多くの人がイメージするエジプトなのかもしれませんが、現実はそうではありません。

お祈りをする3人のイスラム教徒の女性
写真=iStock.com/LeoPatrizi
※写真はイメージです

現在エジプトでヒジャブ(ヘッドスカーフ)を着ける女性はかなり少なくなっていて、町の中で見られるファッションも欧米と変わらないものになっているというのが本当のところです。

昔とくらべてエジプトはずいぶん変わってきました。

その一方で、昔から変わらないユニークな国民性や慣習もあります。

たとえばマイペースな人が多いのもエジプト人の特徴といえるかもしれません。

単なるマイペースというのとは少し違うのですが……。

「約束した時間があれば、それより早くは行かないようにする」
「出社してもすぐには仕事を始めず、まずゆっくり朝ごはんを食べることも多い」
「終業時間になればすぐに帰宅して、残業はしない」

こうしたあり方はある意味、エジプトスタイルです。

「予定」よりも「仕上がりのクオリティ」

エジプト人は時間にルーズだとも見られがちだけど、ルーズというのとはちょっと違います。

たとえば建物などをつくろうとしたとき、完成時期の目標は立てていても、それが絶対だとは考えません。エジプトでは新しいビルを建てようとしたときに遺跡が出てきて中断することがあります。そうした問題は常に起こり得るものだと理解していることも関係していると思います。

何があっても予定どおりに完成させようとはしないで仕上がりを優先させる。トラブルなどで予定日に間に合わなくなることは許容する文化があるのです。

国家的なプロジェクトとしてつくられた「大エジプト博物館」にしても、オープンは最初の予定にくらべてずいぶん遅れています。2013年のオープン予定でしたが11年も遅れ、2024年になってもプレオープン状態で、グランドオープンはまだです。

コロナの感染拡大の影響もありましたが、理由はそれだけではありません。

たとえば、ホログラムでツタンカーメンが持っていたものを再現して紹介する際も、「この部分は何色にすべきか」といったことで研究者同士が意見を交わし合うようになると、そのたび作業を中断させます。

間違った歴史を伝えられないという意識が強いので、細かい部分まですべて検証に検証が重ねられます。自分たちの文化についてはすごく細かくて、アバウトにすることはあり得ない。そのために予定に間に合わなくなることは仕方がないと考えます。