※本稿は、井上薫『裁判官の正体 最高裁の圧力、人事、報酬、言えない本音』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
派手な夫婦げんかは聞こえてしまう
裁判官も夫婦げんかをすることがあります。ただ、周囲の手前、あまり派手にはやらないでしょうか。でも、中には派手にやる人もいます。喧嘩の原因まで聞こえちゃうこともあります。落語に出てくる長屋のような状態ですね。聞く方も「今日の○○さんは理論的だったなー」などと感想を覚えています。それは別に裁判官だからということではなくて、裁判官でも普通の人と同じように夫婦げんかもやるのだなと思えばよろしいわけです。
3年で転勤していますから仮住まいといってもいいでしょう。もちろん本当の意味の一時というわけではない。旅行で宿に泊まっているというよりは長いですが、3年経てば引っ越しだと思っていると、やはり心の底では仮住まいだなと思いながら生活することになります。めったに使わない道具などは、結局、そこの官舎では一度も開けないでまた引っ越しということになってしまいます。
引っ越しのことを考えると、あまり使わないような品物は買わないのが一番ということで、そういう意味で消費生活にも影響が出てきます。引っ越しのない生活を送っている人にはちょっとわからない特殊な感覚が身につくみたいです。
官舎の外の人々との付き合いはあまりない
官舎に入っていると、仮住まいだという気がして官舎の外の近所の方々との付き合いはあまりしなかったですね。どこに行っても町内会がありまして、官舎の人たちにも町内会に入ってもらいたいという意向があるように聞きましたけれども、現実的に入っていないです。別天地というか、そこだけ浮いているというか、周囲に溶け込むまでもないというような感覚でした。近所付き合いをしたらいけないという決まりではありませんが、あまりそこまでやらないで通り過ぎた感じがします。
子どもの教育をはじめ、家族の考え方の違いなどから家族全員で引っ越すというのではなくて、裁判官だけ単身で赴任するということもかなりあります。そうなると、割と広い官舎に一人で住むということになります。寒い地域など冬は一段と寒さが身にしみるかもしれませんね。家族といっても、妻も仕事を持っているとか、趣味がやめられないとかあると、単身赴任の可能性が高くなります。場合によっては、配偶者の希望で裁判官が辞めちゃうという話も聞きますから、単身赴任で何とか妥協が成立しているという場合も少なくないのではないかと思います。