ズバリどの検診を受けたらいいのか

一方で「がん検診には意味がない」「がん検診を受けてはいけない」という主張をする人もいますが、これも間違いです。がんの種類、検査の方法、対象者によって、検診の有効性は変わります。いったい、どの検診を受ければいいのでしょうか。

おすすめなのは、公的に推奨されているがん検診を受けること。日本では「胃がん検診」「子宮頸がん検診」「大腸がん検診」「肺がん検診」「乳がん検診」の5つです(※4)。日本人を対象とした研究も含めて、がん死亡率の減少が示されていますし、たいていは自治体から補助が出ていて少ない自己負担額で受けられます。

原則として、推奨されている対象者や受診間隔を守りましょう。というのも、「がんによる死」を減らすことが証明されている年齢や頻度だからです。このほかに追加の検診を受けるとしても、利益より害が大きくなる可能性があることを理解して受けてください。

また、がん検診は無症状の方が対象です。もしも何らかの症状がある場合は、速やかに医療機関で相談してください。「半年後のがん検診まで待とう」とか「半年前に検診を受けたから大丈夫だろう」と受診しないと、それこそ病気が進行するリスクがあります。

【図表1】指針で定めるがん検診の内容
厚生労働省ウェブサイト「がん検診」より

各がん検診の受け方のポイントとは

それぞれのがん検診について詳しく見ていきましょう。まず、胃がん検診は「胃部エックス線検査」か「胃内視鏡検査」のいずれかが標準です。現時点では公的に推奨されていませんが、ピロリ菌感染と胃の委縮を血液検査で調べる「胃がんリスク検診(ABC検診)」という選択肢もあります。

肺がん検診は「胸部エックス線検査(レントゲン)」が標準です。ただ、海外では喫煙者に対する「低線量CTによる肺がん検診」が肺がん死亡率を下げたという研究がいくつかあります。USPSTFは、現在喫煙しているか、過去15年以内に喫煙をやめた50〜80歳までの成人に対して、低線量CTによる1年に1回の肺がん検診を推奨しています(推奨度B)。該当する人は検査を受けてもいいでしょう。

乳がん検診は、「乳房エックス線検査(マンモグラフィー)」が標準です。「乳房超音波検査(エコー検査)」「乳房MRI検査」は乳がん死を減少させるかどうかが明らかではなく、現時点では推奨されていません。ただ、マンモグラフィーは苦手だという人が、利益が不明確であることを承知の上で受けるのはありだと私は考えます。たまに「乳腺が発達している20〜30代女性は乳房超音波検査のほうがいい」という主張を見ますが、十分なエビデンスはありません。そもそも乳がんの遺伝などのリスク因子がない限り、40歳未満の女性の乳がん発生率は低く、利益より害が大きい可能性があります。

大腸がん検診は、便に混じったごくわずかな血液を検出する便潜血検査が標準です。見た目でわかるほどの血液が混じっているときは検診ではなく、すみやかに医療機関を受診してください。大腸内視鏡(いわゆる大腸カメラ)は、USPSTFでは選択肢の一つとして推奨されていますが、日本では推奨グレードC(利益はあるが不利益が大、または利益はあるが証拠の信頼性は低く不利益ありと判断)です。腸管洗浄剤の内服といった事前準備や、まれではあるものの腸管を傷つけるといった合併症もあります。検診として大腸内視鏡を受けるのなら、医療者と相談の上で判断してください。