新たに推奨された「HPV検査単独法」

なお、推奨される検診内容は、科学的根拠に基づいてアップデートされています。2024年から、子宮頸がん検診として「HPV(ヒトパピローマウイルス)検査単独法」が加わりました。20歳代はこれまで通り2年に1回の子宮頸部細胞診ですが、厚生労働省の要件を満たす一部の自治体では30歳以上でHPV検査単独法が可能になったのです。

HPVは、子宮頸がんの原因となるウイルスです。HPV検査単独法でHPV陰性なら、その後の5年間は子宮頸がんを発症するリスクがほぼないため、子宮頸がん検診を受ける間隔を延ばせます。一方でHPV陽性なら「細胞診(トリアージ精検)」を行い、さらに詳しい追加検査が必要かどうかを判断することに。追加検査が不要であっても、HPV陽性者は1年後に再び細胞診を受ける必要があります。

なんだか少し複雑ですが、要はHPVが陽性か陰性かで子宮頸がんの発症リスクが異なるので、リスクに応じて子宮頸がん検診の頻度を変えるという話です。子宮頸がん検診には、子宮頸がんの発症やがん死を減らす利益がありますが、一方で偽陽性や過剰診断といった害もあります。リスクの高い人は検診を密に、リスクの低い人は間隔をあけて実施することで、なるべく利益を大きく、害を小さくするための工夫です。HPV検査が陰性でも「念のために細胞診も受けよう」「心配だから次の年もHPV検査を受けよう」といった行動は、検診の害が大きくなる恐れがありますからおすすめできません。

子宮頸がん検診
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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自治体が行う推奨外の検査はどうか

また、自治体によっては厚労省が推奨していないがん検診を行っています。住民のためを思って実施しているのでしょうが、正直なことをいうと、専門家は疑問視しています。少なくとも、厚労省の推奨外であることが明確にわかるようにすべきでしょう。

私が住んでいる福岡市では、55歳以上の男性を対象に、1年に1回の「PSA(前立腺特異抗原)」による前立腺がん検診を実施しています。PSA検診は議論があるところで、前立腺がんによる死亡を減らすという研究もあれば、減らすとはいえないという研究もあります。厚労省は推奨していません。USPSTFは、推奨度D(検診をしないことを推奨)としていたときもありましたが、現在は推奨度C(個々の状況に応じて判断)としています。

そのほか、自費で受けられるがん検査はたくさんありますが、いずれも検診における利益は不明確です。「精度高くがんを発見できる」「がんを早期発見できた人がいた」「有名人がすすめている」ことが宣伝によく利用されていますが、いずれも検診が有効である根拠にはなりません。「全身のがんのリスクを調べることができる」と称する検査もありますが、偽陽性の場合は全身のがん検査を行う羽目になりかねず、害は大きいです。数千円から数万円と高額なこともあり、おすすめできません。