ここでは掲げていないが、盗みや暴力などの犯罪自体が、実はこの間、全体として減少しており、そうした低犯罪社会へと向かう動きの中で、特に、性的な犯罪やそれに類するような性被害については、その発生も抑えられ、またそれを許さない意識が人々の間で大きく高まってきたと言えよう。

こうした社会全体の大きな変化の中で、芸能界やテレビ界が旧態依然な意識ややり方を引きずっていたことが、一連の性加害事件の顕在化に結びついたと言わざるを得ないだろう。

性に関する古い考え方や慣習が残っている組織や業界はまだほかにも多く存在していると思われ、一般社会とのギャップを埋める努力を払わないまま放置していた場合、そうした組織や業界でも性的な事件が多く起きているのだろうと思われる。ただ、今回は人々の注目度の高い芸能界やテレビ界で発生したので、社会的な問題として大きく取り上げられる結果となっているのだろう。

国際的に見て日本の性被害が多いのか?

次に、国際的に見て日本の性被害は多いのか少ないのかデータを調べてみよう。

法務省の犯罪被害実態(暗数)調査は国際犯罪被害実態調査に参加して行われているので、本来、国際比較が可能であるはずだが、国際比較データが明らかになっているのは古い年次の調査結果だけである。

図表3には、2005年とかなり古い国際比較だが、国際犯罪被害実態調査による性被害率を各国比較したデータを掲げた。どんな性的被害かを含めて結果を掲げている。

【図表】少ない日本の性的被害、ただし犯罪被害率ではそう変わらない

日本の性被害率はデータの得られる国の中で低い水準である。日本とポルトガルは女性のみの値であるので、他国と同様に男女計で集計すればもっと低くなる。

日本の特徴の1つは、内容的に、レイプ(強姦)被害は少なく、強制わいせつ・痴漢が多い点である。また、セクハラなど不快な行為も当時はまだセクハラに対する認識が高まっていなかったためか、日本の値は低い。

性犯罪被害率の高い国で目立っているのは、レイプ被害も多少高い傾向があるが、むしろ目立つのはセクハラなど不快な行為の被害率の高さである。つまり、女性にとって愉快でない男性の性的なからかいや嫌がらせ(ハラスメント)に対して女性が黙っていないことが性犯罪被害率の高さに結びついている側面が大きいといえよう。

不快な行為(セクハラなど)を除いて見ると、日本と他国の性被害率の違いは、それを含む値ほど大きな差はないと言えよう。しかし、それを考慮に入れても日本の性被害が多いとは言えない。

この国際比較の年次以降、日本の被害率は上で見た通り、大きく低下してきているので、国際比較上も相対的に性的被害が少ないという地位は不変と想像される。

性被害は男性より女性のほうが被害者となる率が高い点からもうかがえる通り(注)、女性の人権をないがしろにしている点に特徴がある。

(注)例えば、犯罪被害実態(暗数)調査の2019年調査によると、男女計の性被害の被害率は1.0%だったが、男性が0.3%であるに対して女性は1.7%と格段に高かった。