女性の人権をないがしろにしているもう1つの事象はDVである。DVには精神的なもの、肉体的な暴力によるもの、性的なものをすべて含んでいる。
OECDの報告書(Society at a Glance 2024)では、2018年の時点で、過去12カ月に親しいパートナー(夫、または事実上の配偶者)から身体的暴力、性的暴力のいずれか、あるいは両方を経験した各国の比率を掲載している。主要先進国(G7諸国)について、このDV経験率を高い順に並べると以下の通りである。
2位 英国 3.6%
3位 フランス 3.5%
4位 日本 3.0%
4位 ドイツ 3.0%
6位 イタリア 2.2%
7位 カナダ 1.7%
日本のランキングはOECD38カ国中23位、G7諸国中4位とやや低いほうに分類される。日本はDVがそう少なくもないが、それほど多い国とも言えない。
以上のように、性被害、あるいはDVという観点から海外諸国との比較で日本の女性の人権侵害の程度を測ってみると、そう悪い状況とは言えないという結論となる。
「体感治安」上、日本人女性の不安はけっこう高い
それでは、日本の女性は日々安心して暮らせているのだろうか。本稿の最後に、そうとも言えない側面があるというデータを紹介しよう。
図表4には、体感治安の男女差(ジェンダーギャップ)を示した。
「体感治安」の指標としては、意識調査における「住んでいる地域で夜ひとりで歩くのが安全と感じるか」の割合が参照される。図では、「安全でない」と感じる割合を掲げている。
OECD平均では男性は17%が安全でないと感じているが、女性は31%がそう感じている。図に掲げたいずれの国でも女性の不安のほうが男性より大きい。図ではジェンダーギャップを「男女差を女性の割合で割った値」で示しているが、OECD平均では45%である。
OECD諸国のうち女性にとって体感治安が最も悪いのはチリであり、コロンビア、メキシコ、コスタリカなどのラテンアメリカ諸国がそれに続いている。
他方、OECD諸国のうち女性にとって体感治安が最も良いのは、ノルウェーであり、ルクセンブルク、スイスがこれに続いている。
日本の女性にとっての体感治安は27.5%であり、OECD諸国の中では中位水準にある。
日本の体感治安は、女性が27.5%、男性が11.5%であり、体感治安に関するジェンダーギャップは58.2%である。OECD平均のジェンダーギャップは45.0%なので、日本のほうがジェンダーギャップが大きい、すなわち女性が安心できない国となっている。
主要先進国(G7諸国)をジェンダーギャップの大きい順に掲げると、
2位 日本
3位 米国
4位 ドイツ
5位 イタリア
6位 フランス
7位 英国
という順になっており、主要先進国の中では日本の体感治安に関するジェンダーギャップは大きいと言わざるを得ない。
性被害やDVに関する客観指標は、上に示したように、日本は国際的にはそう悪くない状況にある。しかし、だから女性が安心して暮らせているかというと、ここで紹介した体感治安のデータにもあらわれている通り、必ずしも、良好な状況とはいえないのである。