Q 幼少期の「先取り」は大事? >>逆効果にも

ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授は、幼児期の教育が最も将来への投資効果が高いことを示しました。現在では、経済学者の多くがこの見解で一致しています。

では、どんな幼児教育がいいのでしょうか。

慶應義塾大学の藤澤啓子教授を中心とした私たちの研究グループは、「保育環境評価スケール」という、保育の質を数値化して測る手法を使って、東京都のある自治体で調べたところ、5歳時点で質の高い保育所に通っていた子供たちは、小学校2年生時点の学力が高いことがわかりました。

具体的には、保育環境評価スケールで計測した幼児教育の質のスコアが1点高くなると、小学校2年生の時の、算数の学力テストの偏差値が5.2、国語が5.5も高くなったのです。

では、学力重視の幼児教育をすることは小学生以降の将来につながるのでしょうか。

意外なことに、アメリカで行われた研究では、学力を重視した幼児教育は小学校入学後の学力にはほとんど影響がないか、むしろマイナスの影響があると指摘する専門家が増えてきています。学力重視の幼児教育は就学後の学力に一時的なプラスの効果があっても、行動や情緒の面でマイナスの影響がありほとんど相殺されてしまったと考えられています。

日本のデータを用いた研究でも、幼児教育の質と、指導者側の教育上の考えの間には関連があることがわかっています。

『プレジデントFamily2025冬号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2025冬号』(プレジデント社)

「就学前に正式に読みと算数の勉強を始める子供は、小学校の勉強で有利になる」
「子供は、小学校の入学までに平仮名を知っているべきだ」

こういった考えの園長がいる保育園は、保育環境評価スケールで測る幼児教育の質が低くなるということがわかりました。

早いうちから教え込もう、先取りしようとするよりも、年齢なりの関心や経験を重視したり、社会性の発達を大切に考えてやったりすることが重要です。

幼児期に小学校の勉強を先取りするような教育は、かえって逆効果になりかねないということは心に留めておく必要があります。