適切な診断のために「喉奥にグッ」が必要
「喉に強引にヘラを入れて苦しめるとは何事だ!」と言ったクレームを受けることが年に1、2回はありますが、これは決して「患者を苦しめてやろう」などと考えてのことではありません。ヘラ(舌圧子といいます)を使って、舌を押し下げないと咽頭が十分に観察できないために、舌圧子を使わざるを得ないのです。
小学校高学年~中学生くらいになると、喉の奥に力を入れてしまい、舌を押し下げるのが困難な子がいます。「ウチの子には舌圧子を使わないでください」と強く主張される親御さんが時々いますが、その場合は診断の精度が下がることをご承知いただかないとならないのです。
もし、無事に咽頭を観察することができたら、診断を確定するための検査に移ることになります。手足口病、ヘルパンギーナなど、咽頭の観察所見のみで診断がつくケースもありますが、数種類の感染症では検査キットを使用することがあります。
抗原検査は「発熱後12時間」以降を推奨
咽頭を観察して、喉の奥の壁にぽっこりとした膨らみ(専門用語でリンパ濾胞といいます)がいくつか見えた場合、インフルエンザの検査を行うことになります。
日本で一般に広く行われている検査は、綿棒を鼻の穴にいれて粘液を採取して行う抗原検査というものです。この検査が導入されたばかりの頃は、検査希望が殺到し、発熱がないのに心配だからと検査を希望したり、旅行に行くから念のために検査を希望したりといった事例にまでつながり、医療現場が混乱したことがありました。
せっかく受診したのに正確な診断がつかないと困りますので、インフルエンザを疑った場合に、受診のタイミングについてお伝えします。
日本において行われた調査論文が参考になるのですが、インフルエンザ様の症状発症、12時間以内に抗原検査を実施した人のうち23.5%~29%の人は、インフルエンザに感染していても検査には反応しない偽陰性になることがあったそうです。
一方、発熱出現後、2回以上抗原検査を行った方のうち、発症12時間以降の偽陰性率は皆無(0%)であったそうです。この情報から考えると、症状発現後に12時間は経過したほうが信用できる結果が得られるということです。