※本稿は、野澤千絵『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
浸水ハザードがあるエリアで28.9万人増加
狭くても利便性が高いエリアに住むことを望む人がいる一方で、狭い住宅で我慢するよりも、もっと広い新築住宅にゆったり住みたいと考える子育て世帯も多いことでしょう。そして、いろいろな街に視野を広げて、手に届く価格帯で探していくと、地価が安めのエリアも選択肢となってくるでしょう。
ただ、こうした地価が安いエリアは、往々にして浸水リスクが高いエリアでもあります。
実際に、浸水リスクが高いエリアで人口が増加しています。筆者が「NHK全国ハザードマップ」(2022年5月末時点)、および国勢調査などのデータをもとに分析したところ、日本が人口減少局面に突入した2010年から2020年までの間に都市計画区域(都市計画法による土地利用規制等を行う地域)では、浸水想定がないエリア(内水氾濫は含まず)の人口は71.9万人減少しているにもかかわらず、浸水ハザードがあるエリアでは合計で28.9万人増加しているという結果が明らかとなりました(図表1)。特に、2階に避難したとしても浸水してしまうという3m以上の浸水ハザードがあるエリアでは、6.4万人の増加となっていました。
古くからある街では空き家が増えているものの…
なお、「浸水想定がない」というのは、必ずしも「内水氾濫も含めて浸水リスクがない」という意味ではありませんが、本分析で使用した浸水想定区域のデータは、2022年5月時点で法律で浸水想定の策定が義務付けられていた1322河川に加え、都道府県が独自で公表していた河川も含まれていることから、主要な河川の浸水想定はおおむね入ったデータで分析した結果と言えます。
浸水想定がないエリアなら、住みたいと思う人が多そうなのに、なぜ人口が減少しているのでしょうか。
それは、古くからある市街地や集落は、先人の知恵もあり、もともと地形的に浸水リスクが低い微高地などを中心にしたところが多いのですが、こうした古くからの街では住民の高齢化で人口減少が進行しているからです。また、大都市では、計画的に整備された浸水リスクが低い郊外の住宅地なども高齢化で人口減少の著しいところが多くなっていることも関係しています。
こうした古くからある街は空き家も増えているため、空き家を活用したり、建て替えたりすれば、浸水リスクが低いエリアの住民を増やすことも可能だと考えられがちです。しかし、遺品や気持ちの整理ができていない、相続でもめている、何から手をつけてよいかわからないといった事情を抱えた所有者が多く、空き家のままとりあえず置いておくケースが多いのです。その結果、その街に住みたいという人たちがいても、新たに人口の流入する余地がなかなか生み出されていかないのです。