江東5区など大都市部での顕著な人口増

一方で、浸水リスクが高いエリアで人口が増加したのは、例えば江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)など浸水リスクの高い低地に広がる大都市部で人口が増えたことが要因です。そこで、浸水リスクが高いにもかかわらず、どのような自治体で人口が増加したのかを分析しました(図表2)。

その結果、全国的に見て3m以上の浸水想定エリア(想定最大規模)で人口増が顕著な自治体の上位10のうち、台東区、江戸川区、足立区、北区、江東区、川口市、戸田市と、7つが利根川・荒川流域に広がる低地に位置する自治体となっていました。

利根川や荒川流域には、「江東デルタ地帯」といわれるエリアを中心に海抜ゼロメートルの低地が広範囲に広がっているため、それぞれの自治体区域の大半を3m以上の浸水想定エリアが占めているのです。

工場や物流倉庫があった土地がマンションに

昔と今の航空地図を比較してみると、昔は工場や物流倉庫などがあった土地がマンションに変わっているところが多く見られます。つまり、時代とともに、工場や物流施設が海外や他地域に移転したり、廃業したりすることによって、多くの跡地が創出されてきた地域なのです。工場や物流施設はトラック輸送が基本であるため、道路網は重点的に整備されてきましたが、鉄道網はそこまで整備されてこなかったこともあり、比較的地価が安いところが多いと言えます。こうした跡地で多くのマンションが建設されていった結果、浸水リスクが高いエリアで人口が増加しているのです。

ここで浸水リスクが高い江東デルタ地帯において、なぜ新しい開発を規制できないのかという疑問が生じます。その理由は、農地エリア等に指定されていることが多い市街化調整区域とは異なり、江東デルタ地帯には、すでに人口密度の高い市街化区域(都市計画法で市街化を促進すべき区域)が連なり、人口規模も極めて大きいため、浸水リスクが高いからといって、新規の開発を大幅に抑制することが現実的に難しいからです。特に、日本では、私権の制限には高いハードルがあります。例えば、新たな開発を規制する区域を指定しようとすると、その区域指定の根拠となる浸水想定区域の技術的な精度が問われることになります。