日弁連が再審の支援をすると通知

「はい。おかげさまで去年の暮れに再審の支援をすると通知をいただきました。どうなるのかよくわかりませんでしたが、先月日弁連から派遣されたと、弁護士が三人来てくれて、無実を主張する理由などを聞き取ってくれました」

袴田さんは胸を張って言った。いかにも誇らしいという明るい表情である。間違いなく日弁連とのつながりが生じたことによって、袴田さんは拘置所にとって煙たい存在になったのだ。

「それはすごい。日本中の弁護士がついたということです。よかったですね。でも、袴田さん気を引き締めて、職員に揚げ足を取られないようにしてください」

「……」袴田さんは怪訝な顔をしたものの頷いた。

「死刑を執行される夢を見た」

死刑の判決が確定すると被告人から死刑確定囚と呼び方が変わる。この違いは当の本人にとっては天と地がひっくり返ったくらいだと、ある死刑確定者から聞いたことがあるが、袴田さんも同じようなことを言った。

「死刑が確定してから死刑が執行される夢をよくみます。僕は人を殺してはいない、と叫び看守の手を振りほどこうと暴れますが、閉ざされた重い鉄扉を押しているような無力を感じるだけです。ひとしきり暴れると冷たい声が返ってきます。『死刑が確定したから執行するのだ。お前が殺したかどうかは、もう問題ではない』と。何度も同じ夢をみるので、本当にそうなるのかと怖くて仕方ありません」

来年は異動になると思うので、面接も今日が最後でもう会えないかもしれない。私は袴田さんがなぜ自白したのか、どうしても本人の口から聞いておかなければという強い思いが湧いてきた。

「ところで袴田さん、聞きにくいことですが、なぜ自白したのか話してもらえますか」

袴田さんの機嫌を損ねるかもしれない質問をして、私は緊張して顔色をうかがった。