地域資源を掘り起こし、「考え方」を打ち出して商品開発
その数カ月後に、地元旧3町村(西土佐村、十和村、大正町)が出資する地域おこし会社・第三セクターとして四万十ドラマが設立された。畦地さんはこの職員募集に応募し、40人のなかから選ばれた。
1994年の1年目は地元の情報収集からスタートした。どんな農家が何の作物を作っているのか、どの事業者が何を販売しているのかを把握するためだ。
2年目は「四万十川に負荷をかけないものづくり」を提唱する会社の“考え方”を示すため、「水」をテーマに、糸井重里ら有識者18人に執筆してもらったエッセイをまとめた「水の本」を販売。7000部を売った。
3年目には「四万十ひのき風呂」を商品化。ヒノキを「木材資源」ではなく「香り資源」として捉えた。地元の製材所から出るヒノキの端材に焼印をつけて天然ヒノキ精油を染み込ませ、湯を張った浴槽に入れるだけでヒノキ風呂が楽しめるというもの。四国銀行のノベルティ他に採用され、累計100万枚3億円を売り上げた。
その後、地元の茶業組合とのタイアップ商品「しまんと緑茶」を販売し10万本を出荷。「四万十川流域の商品は新聞で包もう」という着想を受け「しまんと新聞ばっぐ」を開発して販売。アメリカやベルギーなど海外から注文が入る商品に育っていった。
2000年には「流域生産者ネットワーク」を設立。無農薬野菜や加工品の生産者を組織化するほか、農協と連携して栗や芋の生産増量計画に取り組んだ。
ローカル・ローテク・ローインパクト
栗、お茶、水、ヒノキ、新聞バッグ……手がける事業はすべて当たった。
畦地さんは創業から10年たった頃、さらに自社や地域の知名度を高めるため新コンセプト「ローカル・ローテク・ローインパクト」を打ち出した。志を持ち、環境・産業・ネットワークを循環させて四万十川の自然環境を保全しながら活用するといった、会社の基盤となるものだ。
・ローカル:地域密着による地域資源の展開
・ローテク:自分たちで手間暇かけて加工
・ローインパクト:生産現場の風景を守り育む
コンセプトに共感する地元の生産者や事業者を集め、“四万十川に負荷をかけない”商品開発を心がけた。
2005年、地元住民202人が出資して同社は完全民営化を果たす。道の駅四万十とおわ開業に向け、地元住民を巻き込んでオリジナル商品の開発を進めた。2年間で新たに20品を生み出した。
2007年、ついに道の駅四万十とおわがオープン。地元住民の口コミ効果もあり、人口3000人の地域に初日から約5000人の来場者が駆けつけた。わずか9カ月で10万人の来場者数を突破し、周囲を驚かせた。その後は前述したように、売り上げは右肩上がりだった。
2016年には、自社の仕事の傍ら、四万十町のふるさと納税事務局を担当することに。まず道の駅運営ノウハウを応用した仕組みを3カ月かけて構築。栗やウナギ、米など地域資源を発掘し、住民主導で“四万十町らしい”商品をピックアップした。
当初10事業者に声をかけ、100商品を目標に揃えた。先進事例にならってふるさと納税額日本一の宮崎県都城市を訪問し、商品ページの打ち出し方を学んだ。商品説明については、誰が、どこで、どんなふうに栽培しているのか、背景をしっかりと伝えた。そこに四万十町主体のネット広告が後押しし、従来1年分の納税額600万円を1カ月で達成。1年間で寄付額8億円と大幅な増収に成功した。
2017年には全体の売り上げで年商5億円を記録。構想当初9割の人が「絶対にうまくいかない」と反対した道の駅は、「考え方」を全面に打ち出した商品戦略で大成功を遂げた。
「これもすべて、スタッフの努力や住民のみなさんのおかげですね」(畦地さん)