家賃が上がることの意味
【新倉】やり方はわかりました。けど、このニュースの重要性がイマイチわからないです。「家賃が上がった」って、そりゃ物価高だから家賃も上がるだろうと思ってしまいます。
【高井】でもね、実は家賃って今まで上がってこなかったんですよ。家賃が上がらないことは、日本の物価が上がらない大きな原因だったわけ。
家賃って、支出に占める割合がすごく高いでしょう。消費者物価は、平均的な家庭が何にどれだけお金を使ったかを調べて、そのウェートにそって物価の平均を出しています。
家賃のウェートは2割ある。ここが上がらないと、家賃以外の部分が多少上がっても、物価全体はなかなか上がらない。
【新倉】確かに。
【高井】その家賃が25年ぶりに上がった。逆に言うとね、家賃が下がり続けた25年間って、ちょうど日本経済がおかしかった期間に当たる。
【新倉】「失われた20年」とか、聞いたことあります。
【高井】「失われた30年」とも言われますね。その間、ずっと家賃が上がっていない。それがやっとプラスになったという話。それだけでも大事なのは分かるけど、この記事がナイスなのは国際比較をしてくれているところ。
日本と欧米の家賃の違い
【布施川】欧米では家賃が5%上がっているらしい。
【高井】欧米の家賃が勢いよく上がってるのは、賃貸契約が原則1年単位で、毎年家賃が上がるから。日本は普通、2年更新でしょ。
【布施川】なるほどねえ。
【高井】おまけにね、日本の家賃って、家主が簡単には勝手に上げられないの。法律的に。
【新倉】ああ、借地借家法! 民法の授業で習ったことがあります。
【高井】うん。日本の賃貸契約は借り手の権利がべらぼうに強い。一般論として、家を借りる方が家主より「弱者」だから、保護しましょうという発想だよね。家賃の引き上げを拒否しても、家賃を滞納していても、そう簡単には追い出せない。
【布施川】だから家賃が上がらないのか。
【高井】欧米は毎年更新で、家賃が上がって嫌なら出ていけ、という仕組み。僕がロンドンで家を借りた時も、契約書に「物価上昇分を考慮して家賃を上げる」と明記してありました。アメリカも欧州もこの何年かで消費者物価がバンバン上がっているから、家賃も連動して上がってしまう。
【新倉】それはキツいなあ。家を追い出されるって、生活の基盤を失うってことですもんね。
【高井】日本は借りる人には安心な仕組みなんです。今みたいにインフレになっていても、引っ越さなければ家賃はほぼ上がらないから、生活が急に苦しくはならない。築年数が経って物件が古くなると家賃を引き下げるケースも多いしね。
そうじゃないからこそ、アメリカやイギリス、フランスでは、インフレに抗議してデモやストライキやって、大騒ぎしているんですよ。この2、3年で主要都市の家賃は1~2割上がっているはず。
【布施川】そりゃあデモもしますよ。