詩人・ソローは毎日4時間散歩していた

自然音アプリをダウンロードするより、もっと簡単な充電の方法がある。散歩だ。

スティーブ・ジョブズからヴァージニア・ウルフに至る様々な人物が、心から休息していると感じるためには、歩くことを習慣にすべきだと語っている。哲学者で詩人のヘンリー・デイヴィッド・ソローは「少なくとも1日4時間以上、世俗的な関わりから完全に解放されて、森や丘、野原を歩き回らなければ、私は心身の健康を保てない」と述べている。

だがこのアドバイスを真に受けて、「そんなにたくさん歩かなければならないの?」と心配しなくてもいい。ソローが1840年代に1日に4時間も散歩ができるような生活を送れたのは、友人の詩人ラルフ・ワルド・エマーソンがマサチューセッツ州の大きな森の中にある家に無償で住まわせてくれたからだ。

誰もがソローほど運がいいわけではない。仕事もあれば家庭もあり、友人付き合いもある中で、「世俗的な関わりから完全に解放されて」毎日4時間も歩くのは至難の業だ。

時間や歩数よりも重要なことがある

僕は「1日1万歩歩くべき」という定説についてもこれと似たような印象を受ける。この目標値は現在、世界保健機関(WHO)やアメリカ心臓協会などの多くの団体によって推奨されており、アップルウォッチやフィットビットなどのデバイスでも採用されているほど世の中に定着している。「1日5皿(サービング)の野菜と果物」という推奨と同じくらい広く普及しているが、どちらも数字の由来や科学的根拠は疑わしい。

公園でスマートウォッチをチェック
写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen
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「1日1万歩」は、ソローの「4時間以上の散歩」の現代版みたいなものだ。たしかにこの数字を目標にして、1日1万歩以上も歩いている人たちはいる。だが、なぜ1日1万歩を目標値とすべきなのか、その根拠ははっきりとしていない。

2011年のある研究によれば、ウォーキングの効果を高めるためには、必ずしも歩数は最重要の指標ではない。これはスウェーデンとオランダの心理学者グループによる、ウォーキングがメンタルヘルスに及ぼす影響を調べ、大学生の被験者20人が参加した野外実験に基づく研究だ。