1歳過ぎから少しずつ始まる「母離れ」

実はこの母と子の別れは、母親によって周到に準備されているのだ。母親は子どもが1歳を過ぎると、子どもを父親のシルバーバック(背中の白い成熟したオス)のそばに連れていく。そして、子どもがお父さんの白い背中に興味を示して遊んでいるすきに、子どもを置いてそうっと離れ、ひとりで採食を始める。

子どもはお母さんがいないので、最初はきょろきょろ辺りを見回してその姿を探すが、シルバーバックのそばには同じように母親に置いてきぼりにされた子どもたちがいる。すぐに、それらの子どもたちに誘われて遊び始める。やがて、母親がいなくても気にしなくなり、自分からシルバーバックのそばにやってきて遊ぶようになるのだ。

離乳すると、それまでお母さんのベッドで寝ていた子どもゴリラは、お父さんの大きなベッドのそばに自分の小さなベッドを作って眠るようになる。シルバーバックは自分のところにやってきた子どもたちに実に寛容で、背中を滑り台にされたり、頭を叩かれたりしても決して怒らない。じっと動かずに子どもを遊ばせ、時折グフームと低くうなるぐらいだ。

ただ、子どもたちがけんかをして悲鳴を上げたりすると、間髪入れずに太い腕で押さえつけて止める。その仲裁がまことに見事だ。けんかを仕掛けたほうを止め、体の大きいほうを抑えるのである。決してえこひいきしたりしない。だから、子どもたちはけんかを止められているのだと納得し、ますますシルバーバックを頼るようになる。

緑の草の上に座っているニシローランドゴリラ
写真=iStock.com/bazilfoto
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子どもを父親に任せ、新たな恋の道へ

子どもたちが四六時中シルバーバックのそばにいるようになると、母親はもう子どもを構うことをしなくなる。傍目ではどの子の母親かわからなくなるほど、子どもとは疎遠になる。

子育ては母親から父親へとあっさりバトンタッチされるのだ。やがて次の子どもを身ごもるメスもいるし、他のオスについて群れを離れるメスもいる。その際は決して子どもを連れていかない。もう子育てから卒業して、子どもは父親にすっかり任せ、自分は新たな恋の道へといった風情だ。

子どもたちは思春期まで父親を頼って育ち、やがて娘も息子も群れを離れていく。とくに娘は思春期になると父親を避ける傾向がある。これも実にあっさりと旅立つ。このいさぎよさは人間も見習っていいのではないかと思う。