最初に作ったのは、指クッキー。裁ちばさみで指を根元から切ったような見た目で、爪の生え際から血が滲み出ている。ナカニシさんは娘を驚かせようと、おやつの時間に指クッキーをたくさん入れたコップを用意した。ところが、娘はなんのリアクションもなく、普通に食べてしまう。それが悔しくて、「もっとリアルに!」という探求が始まった。
友人の誕生日の日には、年齢の数だけ指クッキーを刺したケーキを用意した。それがめっぽうウケて、友人たちがそれぞれのSNSにアップした。すると、その投稿を見た人たちから「作ってほしい」とリクエストが届き始めた。そこで、ナカニシさんの気持ちが動く。
「ホテルで清掃のパートをしていたけど、親から仕送りももらっていたし、おいおいなにか別の仕事をせなあかんなとは思ってました。それで、可能性があるんやったらと思って、申請を出してお菓子を作れるようにして、オンラインで販売し始めたんですよ」
2013年10月31日、ハロウィンの日に中西怪奇菓子工房を開業。最初の頃はフェイスブックページだけで運営しており、友人やその友人からポツポツと注文が入る程度で、軽い副業という感覚だった。工作する感覚で目玉ゼリーや脳みそチーズケーキを開発し、その過程や周囲の反応を楽しんでいた。
「脳みそ目玉ケーキ」がSNSで評判に
空気が一変したのは、開業から1年が過ぎた2014年12月。ふと、「ケーキの上に目玉と脳みそを載せたら面白いやん!」と思い立ち、4号サイズ(直径12センチ)のガトーショコラケーキをベースにして作ってみると、想像以上のインパクト。「これって冷凍発送できるのかな?」と、試しに東京の友人に送ってみたところ、崩れずに無事届いた。
嬉しくなったナカニシさんは12月4日、「脳みそ目玉ケーキ、発送できるようになりました」とツイッター(現・X)に投稿。これが瞬時に1800回以上もリツイートされるほどバズり、全国から注文が届いたのだ。ナカニシさんは、青ざめた。クリスマスまで残り20日、清掃のパートをしながらたくさんのケーキを作ることはできない。
「バズったのが初めてやったから、怖かったですね。なんかめっちゃ注文が入ってきて、ちょっと待って、そんなに作られへんって。40個ぐらいで受け付けを止めました」