東京都は12月、昨年度に続き生活支援のため、QRコード決済で10%還元キャンペーンを行う予定だと発表した。こうしたキャンペーンがあると、今回の都のように「10%還元の上限額が3000円」なら1回の取引の最高額3万円まで使おうと考える人もいるかもしれない。だが、家計再生コンサルタントでFPの横山光昭さんは「“お得”なQRコード決済でかえって家計の収支が悪化してしまうケースも多く、消費は慎重にすることが大事だ」という――。
QRコードとスマートフォンを使用して非接触決済
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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手取り月収は60万円近くなのに、毎月5000円しか残らない

キャッシュレス化が加速し、各自治体も「コード決済を使えばポイント○%還元」といった施策を次々と打ち出しています。こうしたキャンペーンのたびに、対象となるコード決済アプリをインストールしていては、「キャッシュレス貧乏」になりかねません。これから話す武田家の家計がその一例です。

先日、家計相談に来た首都圏在住の武田ユウジさん・キヨミさん(仮名)夫婦はともに30代半ばの正社員。小2の長男がいる3人家族です。世帯月収は手取り58万円ですが、月の支出は、家賃15万円を含む57万5000円で、毎月残るのは5000円程度。貯蓄残高は500万円です。

「家計は赤字ではないんですが、手取りで月58万円もらっているからもっと貯められるはずなんですよね……」と、妻のキヨミさん。

手取り月収58万円なら、額面では世帯年収は約1000万円なので、確かにもっと貯蓄に回せる余地はありそうです。

キャッシュレス派になってから家計運がダダ下がり

実は武田さん夫婦が家計相談で来所したのは、今回で2回目。1回目は約9年前で、「これから結婚するにあたり、家計管理のルールを決めたい」という相談内容でした。

当時決まった武田家の家計ルールは、「変動費は、夫婦それぞれ一定額を“生活用の財布”である銀行口座に入れ、そこから随時引き出す」というもの。アナログ派の二人は、クレジットカードは持たず、現金支払い、または口座引き落としという形で続けていました。

ところが、コロナ禍を機に、4年ほど前からキャッシュレス決済を始めるように。そこから、家計の歯車が狂い出してきたのです。

「クレジットカードだと使うたびに0.5%のポイントが付与、QRコード決済にすれば、キャンペーン中だと10%、20%もポイント還元されることもあると聞いて、“これはやらなきゃ損”と思ったのが運の尽き。各種支払いアプリがキャンペーンを打ち出すたびに、そのアプリをインストールして、いろんな決済アプリを使うようになったんです。

そのコード決済も、クレジットカードからオートチャージすればポイント還元率がさらに増えるというので、オートチャージ設定に。そうしたら、知らぬ間にどんどんチャージされていきました。また、買い物する場所によってポイント還元率が上がるクレジットカードもあると聞いて、作ったこともあります」(キヨミさん)

かくして、多いときはクレジットカードが3枚、コード決済アプリを4つ、計7つのキャッシュレスを使い分けるようになったと言います。

「そのうち、クレジットカードは毎月メールで送られてくる『支払い金額』しか見なくなりました。アプリに関しては、使うたびにメールで明細が来るものの、その数が多すぎてチェックしきれない。

これまでは、共有口座の残高さえ見ていれば、その月にいくら使って、残高はこれしかない、ということが一目瞭然だったんですが、これだけ支払い方法が多岐にわたると、いつどこで何に使ったのかがさっぱり分からない。アプリも絞りたいけど、もはや何にどう絞ったらいいのか…」(キヨミさん)

収集がつかなくなり、頭を抱え、来所に至ったというわけです。