心を落ち着かせたら、次にやるべきなのは窓を割ることだという。
「窓を割る目的は、割ったところから水を意図的に流入させ、内と外の圧力差をなくすためです。車内まで浸水させると内側からも水圧がかかり、ドアを開けやすくなります。割った窓から出ようとしても、水が流入してくるのでうまくいかない。水が車内に流れ込む様子を眺めるのはかなりの勇気が必要ですが、ドアを開けられるようになるまで、じっと我慢して体力の消耗を防いでください」
窓を叩き割るには、先の尖った脱出用ハンマーが必須だ。このハンマーは水没時だけでなく、事故で車体が歪んでドアが開かなくなったときにも活躍してくれる。シートベルトカッターと一緒になったタイプや、発煙筒やライトがついたタイプもある。かさばるものではないので、ダッシュボードに必ず1本常備しておくべきだ。
もしハンマーがない場合はどうするか。ハンマーがないと、窓を割るのは非常に困難だ。拳で強く叩けば、逆に手を骨折する危険がある。窓を割るには力を1点に集中させることが大事なので、硬く尖ったものを探して代用する。シートのヘッドレストの金属部分や、シートベルトのバックルでもいい。
何を使うにしても、重要なのは叩きつける場所。車のフロントガラスには、合わせガラスという特殊な構造のガラスが使用されている。合わせガラスは力を加えてもヒビが入るだけで、貫通しにくい。フロントガラスを割るのはほぼ不可能だと思ったほうがいい。
「割るならサイドウインドーです。ただ、真ん中は柔らかくてたわみがあり、叩いても力が分散されてしまいます。狙いたいのは窓の四隅。端はたわみが少なく、比較的割れやすいはずです」
窓が割れない場合は、自然流入に任せるしかない。車内が完全に水で満たされなくても、首のあたりまで水に浸かれば、内外の圧力差もかなり小さくなりドアが開く。ただし、これは最終手段。いち早く脱出を図るために、やはりハンマーは常備しておきたい。
※すべて雑誌掲載当時