「この街はね、リアルな戦争には狭すぎる」
しかし後藤は、そうやって柘植が作り出した戦争もまた結局のところ虚構でしかないと指摘する。物語終盤で、荒川を逮捕するときに、「この街の平和が偽物だとするなら、奴(注:柘植)が作り出した戦争もまた、偽物に過ぎない。この街はね、リアルな戦争には狭すぎる」と喝破するのである。
武装蜂起をしてみせた柘植の行動でさえ、結局は東京に暮らす人々にとっては、あくまで「モニターの奥」で起こっている海外の戦争と大差なく、当事者性を持ったかたちで戦争を認識するには至らないということであろう。
このように、日常と戦争とが混交した風景は、現実世界でも2001年の9・11テロ事件の後のアメリカ国内や世界中の空港で実際に出現した。2003年のイラク戦争は、交戦国の米国においてさえ、「モニターの奥」での戦争であったし、現在進行しているロシア・ウクライナ戦争も、ウクライナ以外の国々にとっては、ロシア自身を含めてやはり「モニターの奥」での戦争となっている。
『機動警察パトレイバー2 the Movie』の中では戦争は起こっていない。しかし、戦争という非常に大規模で凄惨な社会現象であっても現代社会においては記号的な存在となり得ること、あるいは実際にそうなっていることを正面から描き出した。その意味で、SFアニメと戦争の関係を考える上でエポックメーキングな作品である。