植田総裁も石破総理も、利上げに踏み出せない状況に

ひとことで状況をまとめると、日銀の植田総裁も、石破総理大臣もどちらも本当は利上げが必要だと考えている一方で、当面はそこに踏み出すことができない状況に陥ってしまったということです。ですからこの先、1年くらいの間は政策金利が大きく上がることはないでしょう。せいぜい0.5%の壁を意識しながらその直前ぐらいまでの小幅な利上げでお茶を濁すことになると考えられます。

日銀の植田総裁(左)と握手する石破首相=2024年10月2日午後、首相官邸
写真=共同通信社
日銀の植田総裁(左)と握手する石破首相=2024年10月2日午後、首相官邸

問題はその後です。低金利を放置している限り、悪い円安のリスクが常につきまとい、結果として悪いインフレが起きます。賃金上昇以上に生活費が上昇して、実質賃金が下がってしまいます。ですから「選挙」や「支持率」をそれほど気にしなくてもよくなった時、具体的には来年の参院選の後、政治が落ち着いたころに、再び「金利が上がる世界」が現実になってくるというのが冒頭の予測です。

さて、ただでさえ住宅価格が高騰しているのに、それに加えて政策金利が上昇したら住宅ローンを借りる人はどうなるのでしょうか?

金利が1%上がるごとに返済総額は1000万円強増える

一般的なモデルとして夫婦で4500万円のローンのケースを考えてみましょう。首都圏の新築マンション価格の中央値(注:平均値ではない)が6000万円強ですから、4分の1の頭金を用意し残り4分の3をローンにすれば借入額は4500万円になります。これをこの記事ではモデルケースとさせていただきます。

35年固定の住宅ローンを借りる場合、金利が1%上がるごとに元利均等方式での返済総額が1000万円強増えます。

具体的な計算はこんな感じです。今、日銀の政策金利が0.25%程度で、住宅ローンの固定金利商品のフラット35の金利が1.82%程度です。これにはまだ7月の日銀の利上げが反映されていないことを考慮して、フラット35がこの先は2%程度になるとします。4500万円のローンは35年後の返済完了時には総額で約6275万円の支払額になります。

それをベースケースとして、1年後に政策金利が1%上がってフラット35が3%の条件になったとします。そのタイミングで4500万円のローンを組んだ場合の返済総額は約7287万円、4%なら約8379万円になるという計算です。返済総額は1%の金利上昇でざっくり1000万円強増えるのです。

変動金利の場合はというと5年ルールがあって、金利が上昇しても見直すのは5年後になります。一見有利に見えますが、金利が安いうちに借りたとしても日本の長期金利が上がってしまえば、5年より先の支払額は上がり続けます。

6年目から住宅ローンの変動金利が1%上昇すれば、35年間の完済までの支払総額は650万円ほど増えてしまう計算です。上昇が1%で済むとは限らないので、まだ金利が上がる前の今なら思い切って長期固定金利に変更したほうがこの先はいいかもしれない。難しいところです。