舌の位置が適切でないと上顎が育たず歯並びに影響する

子どもの歯並びや噛み合わせをよくするには、前述した通り歯並びの土台となる顎、特に上顎を成長させることが重要になります。では、上顎はどうすれば成長するのでしょうか? 上顎は、舌から押される刺激によって成長します(図表5)。

【図表5】舌の動き
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

そのためには、舌が上顎の前歯の裏の少しへこんだ部分(「スポット」)に常に当たっている必要があります(図表6)。

【図表6】スポット
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

上顎には中央部分に骨の継ぎ目があり、この継ぎ目が開くことによって徐々に成長していきます。舌には強い力があり、常にスポットに当たっていることで、上顎が徐々に開いていくのです。しかし、中には舌がスポットに届かない子どももいます。

この場合は、舌の裏側にある「舌小帯」と呼ばれるヒダが短い可能性があります。この症状を「舌小帯強直症」と言います。舌小帯強直症の子どもは約20人に1人の割合でいます。子どもが「べー」と舌を出した時に、先端がへこんでハート型になれば、舌小帯強直症の可能性があります(図表7)。

【図表7】舌小帯強直症
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

舌小帯強直症を放っておくと、上顎が育たず、歯並びに影響します。そのため当院では0歳の時に歯科検診を受けていただき、舌小帯強直症の場合は舌小帯をカットすることをすすめています。

一般的なメスを使用する舌小帯切除では、すぐ後戻りしてしまう可能性があります。そこで当院では、「ウォーターレーザー」という治療用器具を使い、症例によっては筋肉の層までカットします。

一般的なメスでの手術は表面のヒダだけカットするので、すぐに後戻りします。また局所麻酔も行わないといけないため、0歳児の場合、アナフィラキシーショックの可能性が出てきます。そのため、0歳の子どもに局所麻酔は一般的には使用しません。

局所麻酔が使えないので、0歳へのメスでの一般的な舌小帯切除術は、大学病院に行き、全身麻酔での処置が必要になります。ウォーターレーザーのメリットは、熱による痛みが少なく、治りが早い創面でカットできることです。

0歳ですぐに歯科医院を受診し、舌や粘膜に異常がないかを診る

また、レーザーは出血がほとんどないため、患部をしっかり確認しながら手術ができます。なお、当院での舌小帯切除術は後戻りが少ない筋肉層ギリギリまでレーザーで切開をしていきます。

そのため、舌の裏には動脈や神経などが通っているため、熟練した外科技術が求められます。一般開業医ではかなりのリスクを伴うため難しい処置になります。

我々のクリニックでは歯科医師が数十名いますが、この処置を執刀できる技術と正しい知識をもった歯科医師は口腔外科専門医や歯周病専門医の数名です。

ちなみに、私はアメリカの耳鼻科で舌小帯切除術の世界的権威であるDr. Zaghiというスペシャリストに色々と教えて頂きました。彼のクリニックは私の留学していた大学院でもあるカリフォルニア州にあります。

ロサンゼルスの彼のクリニックで数日間、舌小帯切除術の講義とオペの解説を受けてトレーニングしました。当院で舌小帯切除術ができるのは、生後1歳程度までのお子さんです。そのため、重要なのが、0歳ですぐに歯科医院を受診してもらうことです。我々のクリニックでは0歳は歯ではなく舌や粘膜に異常がないかを診ています。