コンピュータによって考える力を失っていっている
かつてBCGのお茶室の棚には、たくさんの種類のグラフ用紙が置かれていた。そこには通常のグラフもあれば、片対数グラフや両対数グラフなどさまざまなグラフ用紙が20種類くらいあった。そのどれを選ぶかも勝負の1つだ。
間違った用紙を選ぶと、思ったようなグラフが書けず、1時間から2時間はムダにしてしまう。
だから神経がどんどん繊細になって、グラフ用紙の前に行くとどれがいいかピンと勘が働くようになってくる。早く家に帰りたい私も必死だった。
すると最初、あれだけ残業していたのが嘘のように、最短時間で思っていたようなグラフを描くことができるようになっていった。堀はいつの間にか仕事が終わっている。そんなふうに周りから不思議がられたものだ。
ちなみに、いまではこのグラフ作成もデータを打ち込む専門の人がいて、瞬時にコンピュータでいろんなグラフにして出してくれるそうだ。
私のような“カンピュータ”の出番はなくなった。いまの人たちから見れば、私のようなやり方は旧石器時代のような代物だろう。
しかし、私はいまの人たちがコンピュータによって考える力を失っていっているように思えてならない。
いずれにしても、コンサルティングには「論理的思考」と「クリエイティビティ」が不可欠だ。そして論理的思考もクリエイティビティも、日本の企業においては社内で育成することが難しい。
そう考えたとき、それを鍛えているコンサルティングを雇う意義と効用は、言うまでもなく大きいものがあるはずだ。
「何かおかしい」という違和感が大事
コンサルタントの仕事をずっと続けていると、何かにつけて「本質は何か」というのを考える癖がついてしまう。
テレビでニュースを見ても、その報道が果たして正しいのか。もしかすると隠されている事実や真実があるのではないか、などと考えてしまうのだ。
私事で恐縮なのだが、最近は株式投資を行っている。正直、結構儲けさせてもらっている。それは簡単な理屈だ。私の目から見てどう考えても安すぎるという株があって、それを狙って投資しているだけなのだ。
長いこと不思議だと思っていたのが、三菱UFJ銀行の株だった。なぜなら日本を代表するような銀行の株価が、当時400円台だったからだ。
これはおかしい。PBRの数字も0.5ということは、乱暴な捉え方をすると三菱UFJ銀行の融資の2つに1つが不良債権ということになる。本当にそうなのか? いや、何かがおかしい……。
この「何かおかしい」という違和感が大事なのだ。
三菱UFJ銀行の融資がおかしいのか? 株価自体がおかしいのか? それともPBRがそもそもおかしいのか?
いずれにしても腑に落ちないから、ゴールドマンサックスや野村證券の人にも直接聞いてみた。
「堀さん、考えてみて下さい。三菱UFJに成長なんてあるわけないでしょう? いいですか、日本経済そのものにもはや成長はありません。
国民の数も減ってきているし、新たな産業もそれほど出てきていない。そんな国でどうして三菱UFJ銀行が成長できるのですか?」
彼らの意見は一見、正論に聞こえるが、でもやはりどこか納得できずに調べてみると、彼らの言っていることが間違っていることに気がついた。
三菱UFJ銀行はいまや国内だけでなく、タイやインドネシアといった新興国でさまざまに投資したり、貸し付けを行っている。