監察に不祥事を伝えたのに…
――セ・パ両リーグとはどういうことですか。
セクハラとパワハラの王様だということです。これを言うと、みんな笑うんですが、オーバーではなく、本当にそうなんです。同僚の警察官にレイプされた女性警官から相談を受けたことも何度かありましたが、結局、どれも表には出ていません。私が主席監察官(編註:監察官は、警察内部の不祥事案を調査し、必要に応じて事件化したり処分したりする。「警察の中の警察」とも呼ばれる)に直接伝えても、もみ消されましたし、逆に女性の方が痛めつけられる。労働組合もないし、守ってくれる人が誰もいないんですよ。
――深刻ですね。警察庁によると、2023年に懲戒処分を受けた全国の警察官や警察職員は、266人。内訳は、1位が愛知県警の21人、2位が大阪と千葉の19人、3位が警視庁の17人、4位が福岡の15人。これが全国ワースト5でした。
その下にワースト10までの第2グループがあって、兵庫や神奈川、埼玉が入っています。どこの警察も第2グループには入らないようにしたいと思っているんです。鹿児島県警では今年に入って捜査資料を漏洩したとして4月に巡査長が、不同意わいせつの疑いで警部が、5月には盗撮などの容疑で巡査部長が、相次いで逮捕されました。鹿児島県警は第2グループのすぐ下にいたので、なんとしても阻止したかったのではないでしょうか。ようするに、絶対ワーストグループには入りたくないんですよ。
――警察官による不祥事は、警察組織にとって、それほど不都合なことなのでしょうか。
もちろんです。私が現職のころは、東のワースト横綱が神奈川県警、西の横綱が兵庫県警だったんです。とにかく各都道府県警はその数字を非常に気にしています。
「結局、カネ、カネ、カネなんです」
――ワーストだと、トップである本部長に何かペナルティがあるのでしょうか。
いえ、不祥事の件数が多いからと言って、直接出世に影響するわけではないんです。それでも、矜持というのでしょうか、自分が本部長のときにワーストのレッテルは貼られたくないという思いがあるのだと思います。ただ、優秀な監察官は、不祥事自体を隠ぺいすることができるのも事実です。監察室勤務となった警察官の多くは出世します。監察課長が一課長になり、刑事部長になっていく、といった具合に。
――実際はもっと多い恐れがあると。
私はそう思っています。
私が愛媛県警に在職していた時は、裏金をたくさん作る、上司にお歳暮・お中元を持っていく、そういう警察官には必ず昇進試験の問題が漏れていました。だから早く出世していきます。また、署長以上の高い階級になったら部下に「わしのとこの箪笥がちょっと壊れてのー」とか言いますもんね。つまり、箪笥を持ってこいということです。「今度うちの子どもが高校に入ったんや」と言われれば、入学祝を持ってこいということです。そういうことが当たり前で、結局、カネ、カネ、カネなんです。以前、公務員は3月のボーナスがあったんですけど、その3月のボーナスは上司に持っていくためのお金で、それを懐に入れる人は出世できませんでした、絶対に。