先行者から学べるものは全て学ぶ

なぜ実業家らは先行者の情報収集を重視するのだろうか。それは自社でゼロからサービスを考え、実験し、機能する商品を発見をすることは非常にコストが高く、不確実であり、時間もかかるからである。

この膨大な実験結果を無料で教えてくれるのがすでに自社が参入したい領域で事業を行っている先行者である。

本書では自社が進出を検討している領域ですでに事業を行っている事業者のことを先行者と呼ぶ。この先行者が見当たらない(ヒントをくれる会社がない)状況は筆者は一度も経験したことがない。先行者はたくさんいる。

そして儲かっている先行者はその領域で大量の「正解」(何をすれば儲かるのか)を発見している。逆に儲かっていなければ「不正解」であることを示している。先行者は儲かっている・いないにかかわらず、最高の情報源として活用できる。

先行者の情報を持たず戦略を組み立てるのは実験をしない理論のみの研究のようなものだ。実験事実がなければどうやって自分の理論が正しいことを証明できるのだろうか。

過去にゲームメディア事業に参入したものの、方針転換を余儀なくされた経験を持つのはSEOを強みにしたデジタルマーケティング支援とメディア運営、マイカーのサブスク販売を主に行うナイルだ。同社代表の高橋氏は、後発者の参入は「模倣」から始めるべきだと考えている。

高橋氏が参入した当時のゲームメディアは、ソーシャルゲームの成長とともにそれらゲームの攻略情報を発信するGamewith社など関連企業が大きく成長し、上場も実現した。

ソファに横たわってスマートフォンでゲームをする女性
写真=iStock.com/gorodenkoff
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しかし、ナイルは成功している先行者らが「モンスト」のような大ヒットタイトルの攻略コンテンツに注力していったのに対して、独自性を追求し、先行して成長しているゲームメディアとは異なるコンセプトで参入してしまったのだ(ファミ通のような高品質コンテンツをメディアの中心にしてしまった)。

高橋氏は当時を振り返り「先行する企業の模倣の過程で、自社の強みを活かしていく方向性を検討するべきであった」と語る。先行者が苦労し実験を繰り返し、ユーザーが求めるコンテンツという「正解」を無料で教えてくれるのに、それを無視する必要はない。

後発なら効率的な追撃のみに専念できる

「既に似たようなものがあるから後発に参入の余地はない」という議論はあまりに雑である。

実業家らは「あの会社は儲かっている。しかし欠点もたくさんあり、重要な要素であるこれができていない。自社ならある面ではもっと上手くやれる」と考えて参入戦略を策定する。

独自性を発揮するには「先行者が出来ていないが顧客は強く求めているもの」を自社が出来る必要があるが、参入当初は「顧客が強く求めているもの」をよくわかっていないのだ。

ある程度強く求められていることが証明されているコンセプトを十分に踏襲するべきである。

後発が先発を追い越したり、対象顧客層を分けることで利益を確保したりする事例は全く珍しくない。GoogleやAmazonを含む世界最大手になっている多くのサービスも後発である。ビジネスの発明者はビジネスでの覇者とは多くの場合で異なっている。

後発であれば先行者が支払った実験のコストを支払う必要はなく、効率的な追撃のみに専念できる。

必要なのは常に正確で鮮度が高い先行者の情報を仕入れ続け、インサイトを発見し参入戦略を作っていくことだ。「誰も見たことがない画期的なイノベーション」を参入戦略の必須要素とする必要はない。