「増税ゼロ」でも経済・財政の運営ができる

「増税ゼロ」、茂木敏充幹事長が自民党総裁選挙で掲げた画期的な政策だ。茂木幹事長と言えば、自民党屈指の政策通として知られた人物であり、その人物が増税ゼロでも経済・財政の運営ができると打ち出した意味は大きい。

増税ゼロの具体的な内容は、岸田政権で掲げられた「防衛増税や子育て支援金の社会保険料追加負担の停止」である。

記者会見で自民党総裁選への立候補を表明する小泉元環境相=2024年9月6日午前、東京都千代田区
写真提供=共同通信社
記者会見で自民党総裁選への立候補を表明する小泉元環境相=2024年9月6日午前、東京都千代田区

まず、大前提として、茂木幹事長が「社会保険料は税金ではない」という詭弁を弄さず、まともな税財政に関する議論を行うために、税金と社会保険料の両方を「課税」として扱う発言を行った良識に賛同したい。このこと自体は当たり前の話なのだが、それすら認めようとしない虚言を弄する政治家が多すぎるため、税財政に関する議論が整わない日本の政策論議の惨状を是正する意味がある発言だ。

防衛増税や子育て支援金の社会保険料追加負担は各々1兆円程度である。しかし、一般会計だけでも国の予算は110兆円を超えており、特別会計まで含めると約300兆円となっている。防衛費や子育て支援のために全体予算の1%以下の予算すら組み換えで捻出できない総理はそもそも国家経営ができているとは言えない。外国為替特別会計や年金積立金の運用を見直すだけでも十分に賄える。

「増税ゼロ=茂木ライン」を軸に総裁候補を評価すべき

さらに、昨今の経済情勢と税収の伸びに鑑み、経済成長すれば増税が不要であることは明らかだ。財務省が公表した令和5年度の税収は4年連続で過去最高を更新しており、令和2年度・約61兆円から令和5年度・72兆円超まで税収が増加してきた。その上で、令和7年度にはプライマリーバランス黒字化も達成できる見通しとなっている。

これは増税派には不都合な事実であるが、経済成長を継続して税収増を継続することが唯一の財政健全化への道であることは明らかだ。茂木幹事長は9月7日に産経新聞の取材に対して、「生産性が1%上がれば税収は1.4兆円上がると試算される」と回答しているが、このような経済成長と財政運営に関する常識が浸透していくことが重要だ。

茂木敏充氏
総裁選で「増税ゼロ」を掲げた茂木敏充氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

茂木幹事長が示した「増税ゼロ」構想は、経済政策の新基準「茂木ライン」として取り扱うべきだと考える。なぜなら国民にとって、自民党総裁選候補者が常識的なマクロ経済運営の素養を持っているか否かの判断基準となるためだ。

すべての候補者を「茂木ライン」を軸として、増税派か、減税派かに分類すれば、茂木ラインを超える無意味な増税路線を志向する候補者は政権担当能力がないとみなすことができるし、茂木ラインよりも強力な経済成長・減税政策路線の候補者こそ国の舵取りにふさわしい人物だと言えよう。