寄り添いではうまくいかなかった

――スダチでは再登校を目指して、子どもが問題に向き合う力を引き出すことを重視しているとうかがいました。

いきなりこの考えにたどり着いたわけではもちろんありません。不登校の子どもの支援について勉強し始めた時は、私も子どもを見守り寄り添うものだとばかり思っていました。不登校の子どもの支援に関する本にはそういう手法ばかりが書かれていて、そうするしかないのかなと思ったのです。

当時私は「メンタルフレンド」という不登校の子どもへのボランティア活動をやっていました。不登校のお子さんの家に行って、一緒に遊んで、話をたくさん聞くという、要は寄り添いですね。仲良くなって子どもたちが元気になれば、いずれは社会に出られるようになるだろうという考え方です。これは私が所属していた団体だけがやっていることではなく、自治体などいろいろなところでも行われている活動です。

ところがこのメンタルフレンドが、全くうまく行きませんでした。最終的に、そのお子さんから会いたくないと言われてしまったんです。

――どうしてそうなってしまったんでしょう。

初めの頃はゲームを一緒にやったり、いろんな話もしました。でも、「これをいつまで続けるんだろう」みたいな葛藤があったんです。で、ちょっと踏み込んだんですね。

相手のお子さんは小学5年生ぐらいから不登校だった男の子で、当時は高校1年生でした。そこで「僕も普通に社会で活動しているけれど、もともとそうだったわけじゃなくて、全然勉強しない時期もあれば、ダメダメだった時期もあった。でも紆余曲折あって今に至っているわけで、まだ高校1年生の○○君だったら全然大丈夫だし、絶対に活躍できるようになる」みたいなことを、言ったんです。それが苦しいとかうざいみたいな感じになってしまって。

寄り添うところから一歩踏み込んだ時に難しくなるんです。踏み込んだ結果「もう嫌だ」と言われたら、われわれはそれ以上支援できなくなる。

小川涼太郎さん
スダチ代表・小川涼太郎さん(写真=本人提供)

これは別に僕ひとりの話ではなくて、当時所属していた団体には、メンタルフレンドをやっている学生が10人くらいいました。そのメンバー同士でたまに会って話をしたりしていたんですが、皆さん本当にお子さんのためを思って、一生懸命努力されている方ばかりだったのに、再登校に導けたという話を聞くことはなかったんです「2年間通っていても何も変わらない」といった話もいろいろ聞いたし、僕だけならとにかく、他のメンバーもうまく行かないと言っている。それで、このやり方で支援をするのはかなり難しいのではないかと思ったわけです。

そこから他の手段をいろいろ探す中で、たまたま今のメソッドに繋がる考え方を持ってる専門家の方と出会いました。その方の考え方を聞いた時に「従来のやり方とは全く逆だけれど、これこそが答えなんじゃないか」というのが自分の中で見えたんですね。それが、今のメソッドで不登校の子どもへの支援を始めるに至ったきっかけです。

不登校の子どもが陥る悪循環

――なぜ見守りが再登校につながりにくいのでしょうか。

まず、来談者中心療法の考え方は、今では日本以外の国ではあまり主流ではないのです。科学的根拠に乏しく、実績が出るケースが少ないからです。今は認知行動療法や応用行動分析といった手法の方が主流になりつつあるのが世界の現状だと思います。

不登校であれ他の精神疾患であれ、ただただ見守るだけでは解決しないと思うのですが、今の日本の心理学は世界について行けていないのではないかと思います。

カウンセラーに説明する女性
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

そして、不登校のお子さんを見守った場合にどうなるかと言うと、悪化していくケースが多いです。何が悪化するかと言うと、生活習慣がどんどん乱れていったりとか、スマホやゲームへの依存が加速したりします。そうすると運動不足にもなるし、生活習慣が乱れれば体調不良にもなるしメンタル的にも不安定になる。悪循環がたくさん起きてしまうんです。

見守るということは、言葉通り何もしないことだとたいていの人が解釈すると思いますが、本当に何もしないで不登校問題が解決するなら、そもそも不登校がこんなに大きな問題になってないと思うんですね。不登校が年々、増え続けているというのは、解決できるケースが少ない証拠ではないでしょうか。

――ただ、スダチのメソッドに抵抗を感じる人も少なくないようです。

それはそうですね。世の中のほとんどの人が「見守りましょう」と言っている中で、われわれの主張はなかなか信じてもらえない。われわれの言うことよりも、医師やカウンセラーが言っていることのほうがよっぽど信頼できると思うのは普通だと思います。