「俺は生涯、一線の記者でいたい」とみんな言っていた
【佐藤】しかも出世に興味がなかったよね。東大の後期教養学部の国際関係論専攻出身で、ある意味プラチナチケットを持っているのに。
外務省にいた当時、会う記者がみんな同じことを言っていたんですよ。「俺は生涯、一線の記者でいたい」「もし部長職をオファーされても拒否して編集委員としてやっていく」って。一種のブームだったんだろうね。どの新聞社の記者も示し合わせたように言うから、面白いなと思って聞いていた。そしてそういうことを声高に言うやつほど、管理職になるために裏で画策していたことがあとからわかって、やっぱりなあ、と思うんだけど。
西村さんはそういった妙な気負いやアピールが一切なくて、ああこの人は自分の力には自信があるけど、出世のために何か画策するタイプではないんだな、と見ていました。
【西村】そうだったんだ(笑)。長い付き合いですが、佐藤さんが私をどう見ていたか、初めて聞きました。自分が組織の中にいるとわからない話かもしれないね。
佐藤さんから見て、ほかに「こういう記者が多かった」というのはありますか?
政治家を「先生」と呼んではいけない風潮
【佐藤】朝日の記者はわりと特徴がありましたね。ひどいのは外務省の人事にも手を突っ込んできたがる。「あいつ、局長の悪口を言っていましたよ」とか「ひどいたかり癖があって困っています」とか、あることないことを裏で告げ口して、自分にとって都合の悪い人間を陥れようとする。そういう妖怪記者が多いのは朝日で、かなり警戒していました。
【西村】そういった記者たちの告げ口は、実際に人事に影響があるの?
【佐藤】あるんだ、これが。
【西村】まあ朝日に限らず、その手の人間はどこにでもいるよね。
【佐藤】いや、朝日は多かった。正確に言うと、朝日とNHKには多かった。西村さんはそういうことをしなかったから、それも非常に印象的だった。
【西村】非常にコメントしにくいですね(笑)。
【佐藤】同じ新聞記者でも会社によって違いがあって面白いよ。もちろん個人によるところも大きいんだけど。もう一つ朝日新聞の記者の面白い特徴は、とにかく政治家を先生と呼んではいけない風潮。すごく苦しそうに「さん」付けをする。あとこれはキャップによって違うだろうけど、あるチームは会食でキャップが来るまで箸をつけてはいけないという掟があった。こちらが「もう食べなよ」と促しても、キャップが30分遅れるとしたら、30分、誰も箸をつけずに待ってるの。