親の感情任せの振る舞いが大きな爪痕を残す
これは何も日本だけのことではない。1980年代から欧米では「マルトリートメント(不適切な養育)」と言われ、「避けるべき子育て」として問題視されていたものだ。
もちろん、「え? こんなことまで?」と思った人や、あるいは、過去にそういう仕打ちを受けたことがあるという人も少なくないのではないだろうか。
確かに、身体的虐待や性的虐待のような、わかりやすい加虐ではないので、感情に任せてこのような振る舞いをしてしまう人も少なくないだろう。
だが、これらの心理的虐待の被害にあった方を取材していくと、親からすれば感情に任せた一時的な強い言葉や、子どもを奮起させようとしたきょうだいとの比較でも、子どもの心には大きな爪痕を残していたことがわかってきた。
母の地雷を踏まないよう心を配るも逆効果
ケース:口を開けば父親についての愚痴ばかりだった母
野村優子さん(仮名・28歳・パート)
野村さんは父と母、そして弟と妹の5人家族。
彼女は主に母親からの暴言を浴びてきたサバイバーだが、その「暴言」に、とりわけある言葉が多かったという。
「母が私にだけ、父に対する愚痴をこぼすんです。それだけでも嫌なのに、一つでもこちらが返事を間違えると、怒りの矛先が私に回ってくる。だから、母の愚痴に対して地雷を踏まないように、常に母の顔色をうかがいながら返答していました。
父に関する愚痴といっても、ほんの些細なことです。例えば、父が食器を洗った後に食器入れに片付けない……といったことなどです。地雷を踏まないように考えながら返答をするので返事が遅くなり、それで余計に母をイライラさせてしまったこともあります。