「一人勝ちの状況が変化するかもしれない」

8月28日、注目のエヌビディアが5~7月期の決算を発表した。それによると、売上高は前年同期比約2.2倍の300億4000万ドル(1ドル=146円で約4兆3900億円)、純利益は2.7倍の165億9900万ドル(2兆4200億円)だった。決算の内容自体はきわめて好調といえる。

ところが、決算発表後、一時、同社の株価は大きく下落した。その背景には、これまでの高い収益増加ペースが鈍化するとの懸念があったとみられる。ただ、見逃せない要因は、「今後、エヌビディアの一人勝ちの状況が変化するかもしれない」との投資家の予想があったことかもしれない。

米半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)は、エヌビディアに対抗するGPUを開発している。データ転送速度の速い広帯域幅メモリー(HBM)の分野でも、これから競争が激化することが考えられる。

米新興企業データブリックスのイベントに登壇した米エヌビディアのフアン最高経営責任者(CEO)=2024年6月12日午前、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ
写真=時事通信フォト
米新興企業データブリックスのイベントに登壇した米エヌビディアのフアン最高経営責任者(CEO)=2024年6月12日午前、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ

弱含みの市場に“成長の夢”を与えたエヌビディア

当該分野では、先行する韓国のSKハイニックスを、米マイクロン・テクノロジー(マイクロン)などが追い上げている。韓国のサムスン電子は、“CXL(高速演算リンク)”と呼ばれる次世代のAI向けアクセラレーター(計算処理を高速化する専用のハードウエア)の開発を急いでいる。

さらに、グーグルなど大手プラットフォーマーは、今後、高性能の半導体などを内製化することも想定される。エヌビディアの一人勝ちの状況は変化する可能性が高い。金融市場は、その変化に準備を始めているといえそうだ。

2023年に入ると、世界の半導体市況は弱含んだ。コロナ禍をきっかけにしたスマホやパソコンの供給は過剰になった。パソコンの演算などを行う中央演算装置(CPU)、DRAMやNAND型フラッシュメモリーなどの需要は減少し、価格は弱含みになった。

そうした状況下、エヌビディアは、世界の投資家に“成長の夢”を与えた。同社はGPUの演算処理能力を高め、AIの学習を支えた。昨年5月の決算が出ると、エヌビディアはAI業界の成長を牽引するという成長期待が一段と高まった。株価は急上昇し同社の決算に注目する主要投資家などは増えた。