※本稿は、内藤誼人『世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
交渉は「笑い」があるとうまくいく
ビジネス上の交渉では、お金がかかっているのでどちらも真剣になり、丁々発止のやりとりがなされます。その際に、ちょっとだけ遊び心を出して、相手を笑わせてみるのも悪いことではありません。というのも、相手を笑わせることができれば、交渉もうまくいってしまうからです。
大笑いした人間は心が広くなるというか、強硬な態度を取れなくなるというか、「まあ、今回は譲ってやるか」と思うらしく、大きく譲歩してくれるようになります。冗談こそが、交渉の決め手になるのです。
米国カンザス大学のカレン・オークインは、絵画の売買をめぐって売り手と買い手に分かれて、疑似的な交渉をやらせるという実験をしました。
売り手と買い手のどちらになるのかは、インチキなクジで決められます。サクラは必ず絵画の売り手になり、本当の実験参加者は買い手になることになっていました。サクラは、買い手がどんな価格を提案してきても、最終的には2000ドルの譲歩をして、「これが私の最終的な提案です」と言うことになっていました。この際、半分の参加者との交
渉において、サクラは冗談も言いました。「これが私の最終的な提案です。ついでに私のペットのカエルもお付けしますよ」と言うことになっていたのです。
私には、これのどこが面白いのかよくわからないのですが、アメリカ人にはウケるのでしょう。サクラは、残り半数の参加者との交渉のときには、ただ「私の最終的な提案は○○ドルです」と言うだけでした。では、冗談を言うことで相手は譲歩してくれたのでしょうか。
その割合を測定してみると、たしかに冗談を言った後には相手は譲歩してくれました。53%の人が譲歩してくれたのです。冗談を交えず、ただ2000ドルを引いた価格を相手に伝えたときには、譲歩をしてくれる人はもう少し減りました。冗談を言わない場合は45%の人しか譲歩してくれなかったのです。
冗談で相手を笑わせれば相手からの譲歩を引き出せることが、この実験でわかります。どんなにつまらない冗談でも、とりあえず言ってみましょう。それで相手が笑ってくれれば、その後の交渉は比較的ラクなものになります。もし相手が笑ってくれないのなら、さらに冗談を畳みかけ、相手が失笑するくらいまで頑張りましょう。「失笑」も笑いには違いありませんから、交渉は和やかなムードになって、相手からの譲歩を引き出すことができそうです。