分業体制に組み込まれていない

確かに中国にも半導体産業はあり、中芯国際集成電路製造有限公司(SMIC)などの世界的に知られた半導体企業もあるが、中国が半導体製造に乗り出した時期は遅く、最先端の半導体を製造する能力を獲得するに至っていない。

また日本やオランダ、アメリカに強みがある半導体製造装置やシリコンウェーハ、日本や韓国に強みがある半導体洗浄剤に使うさまざまな化学品についても中国は主に輸入に頼っており、国内でこれらの産業が育っているわけではない。

特に半導体の性能を決定づけるのはシリコンウェーハに回路を焼き付ける「エッジング」と呼ばれる作業を行なう露光装置である。世界中で高性能半導体を作るために必要なEUV露光装置を作れるのはオランダのASMLしかない。

オランダがアメリカの対中輸出規制に参加し、中国にEUV露光装置を輸出しないことで、中国が先端半導体を作ることは極めて難しい状況になっている。

つまり、中国はグローバルな市場から材料や装置を調達して自国で製造することはできるが、その製造能力は先端半導体の分野で競争できるレベルにはない、ということが言える。

中国に対する軍事的優位性

なお、汎用半導体に関しては中国の国内で使用される分については生産する能力を持っており、国際的にも競争力を持っている。

先端半導体の開発を制約されている中国は、戦略を変更して汎用半導体への積極的な投資を進めている。過剰生産とも言える状況を作り出すことで、汎用半導体の価格を下げ、西側諸国の汎用半導体を作るメーカーを市場から駆逐し、独占的な状況を作ろうとしていると言われている。

いわゆる過剰生産(overcapacity)論であり、現在、米欧では中国の過剰生産に対して何らかの対抗措置を取らなければならないという議論が持ち上がっているが、実際にそのような措置を取れば、WTOのルールに合致しないだけでなく、中国による報復もあり得るとみられている。

米国と中国の国旗
写真=iStock.com/simon2579
※写真はイメージです

中国が先端半導体を作れないということは、地経学的な意味で極めて重要な点である。中国にその技術が存在しておらず、西側諸国のサプライチェーンに依存している状態は、西側諸国にとって中国に対する軍事的優位性を維持していることを意味し、その状態を固定化することで、国際政治上の優位性を保つことができる。

その優位性をこの先も保ち続けるためには、先端半導体を作るのに必要な半導体製造装置や、そのための技術やノウハウの中国への移転を阻止することが有効となる。つまり、経済的・技術的な手段を使って中国への製品や技術の移転を阻止することで地政学的な優位性を保つことができるという、まさに「地経学」的な問題なのである。