インフレに苦しみ、大幅な賃金引き上げを要求
ストは、2022年のロシアのウクライナ侵攻以降のインフレにより、実質所得が減ったことに対する市民の抗議の表れでもある。
2023年3月3日には統一サービス業労働組合ver.diの指揮の下に、ヘッセン州、バーデン・ヴュルテンベルク州など5つの州で地下鉄、バスなどの公共交通機関の乗務員たちがストに突入し、通勤客や旅行者の足が乱れた。その理由は、労働者たちがインフレによって目減りする実質賃金の引き上げを求めたからだ。
2022年の物価上昇率が6.9%。2023年には5.9%に達したため、多くの組合が約10%の賃上げを求めた。
たとえばver.diは市バスの運転手など地方自治体に雇用されている社員238万5000人について、10.5%の賃上げを求めた。これに対し経営側が示した賃上げ率は、5%に留まった。ver.diはこの回答を不服として、ストに踏み切った。
経営側は、「労組の要求を受け入れたら、人件費が154億ユーロ(2兆6180億円)も増えてしまう。このような法外な賃上げは、とても受け入れられない」というコメントを発表した。
労働者による「分け前争い」は激化へ
この他にもver.diは、郵便会社ドイッチェ・ポストの社員16万人のために、15%もの賃金引き上げを求めた。また鉄道交通労働組合(EVG)は、DB従業員の賃金を12%引き上げるよう要求した。IGメタルは、繊維・被服業界で働く6万9000人のために、8%の賃上げを求めた。
二桁の賃上げ要求やストは、GDPというパイが縮みゆく中、労働者たちの間で分け前を増やそうとする争いが起きていることを示す。ドイツの景気後退がさらに深刻化した場合、「分け前争い」はより激しくなるかもしれない。
ドイツの労働組合は日本に比べてはるかに戦闘的であり、顧客にも忖度しない。日本の組合はドイツに比べるとおとなしく、企業の一部であるかのように感じられる。
もっともドイツで労働争議によって失われる労働日の数は、欧州の他の国に比べてはるかに少ない。経済社会科学研究所(WSI)の統計によると、2010年から2019年に、ストによって失われた平均年間労働日数は、フランスでは労働者1000人当たり110日、ベルギーでは98日だったが、ドイツではわずか17日だった。上には上がいるのだ。