ホスト国としての「礼」をあまりに失している
このような圧倒的にアウェーな状況で行われたのが、前述の「デジタルルーレット」だ。そこで選ばれたのは「フランスの英雄」とされるテディ・リネールだった。あまりにできすぎている展開に日本のネットユーザーからは、「ズルーレット」などと批判する声が相次いだ。
このルーレットについては、東京五輪の柔道男子60キロ級金メダリストの高藤直寿氏がテレビ朝日系「サンデーLIVE‼」で指摘した通り、「不正は絶対ない」のだろうし、全日本柔道連盟の関係者は「透明性は確保されているという認識でいる」と述べている。それが公式見解である。
一方、試合中の国歌の大合唱に象徴されるような、ホスト国には、あまりに「礼」を失した姿勢が、これまで述べてきたような「疑惑」を際立たせているのではないだろうか。
「衣食足りて礼節を知る」ということわざを、いまさらフランスに説いても詮ないが、裏を返せば、今の同国は、衣食が足りていないのかもしれない。先に行われた同国の総選挙は、「極右」や「極左」をはじめ四分五裂し、国のまとまりを欠き、パリでは野宿者が次々に立ち退かされている。開会式当日(7月26日)に起きた高速鉄道TGVを狙ったテロ事件は、発生から2週間以上が過ぎた本稿執筆時点(8月13日)でもなお、犯人逮捕に至っていない。
3年前の東京五輪ではどうだったか
オリンピックを開催する国にふさわしい礼節どころか、治安を守り、人々や選手を安心させる役割すら、まともに果たせていないのではないか。そんなフランスに対して、日本への礼節を期待するほうが間違いなのかもしれない。
こうした思いは、3年前の東京大会と比べてみると、よりクリアになる。
2021年、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、同大会は、五輪史上はじめて、無観客で開催された。当時は、オリンピックの開催そのものに日本中が反対しているかのような空気であり、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(当時)が「パンデミックの所でやるのは普通ではない」と発言するなど、多くの「専門家」が、反対の大合唱だった。加えて、新聞やテレビ、ネット上でも、この流れに同調して、五輪自体を敵視しているかのような世論がつくられていた。