特に非製造業における円高の影響は重要である。同じく日銀短観6月調査によると、設備の過不足を示す生産・営業用設備判断DI(過剰-不足)は製造業全体で+2%ポイント、つまり過剰感が若干残っているが、非製造業では▲4%ポイントと不足を訴える企業の方が多い。

円高による影響は限定的

また、雇用の過不足を示す雇用人員判断DI(過剰-不足)は、製造業で▲21%ポイント、非製造業に至っては▲45%と記録的な人手不足状態にある(図表3)。

円高が進み輸出産業の業績に陰りが出たとしても、非製造業を中心とする内需産業において業績改善が設備投資や雇用の拡大、賃金の上昇に結び付き、輸出産業でのマイナスを補うであろうことは容易に想像がつく。

【図表】雇用人員判断DI(過剰-不足)
筆者作成

株価については、現在、日経平均が3万5000円前後で落ち着きつつあるが、この水準は今年初の3万3288円を上回っている。そのため、基本的に損失が発生しているのは今年に入って購入した株式に限られ、昨年以前から保有している株式は含み益が残っているはずである。

しかも、日本では株価の上昇が個人消費を押し上げる「資産効果」は一部の高額商品やサービスで見られる程度であり、株価下落により消費が落ち込む「逆資産効果」も当然に小さい。

以上の通り、日本経済全体で見れば、今回の円高株安によるマイナスの影響は限定的であり、逆にこれまで課題とされていた輸入物価の上昇を抑制し景気回復の可能性を高めたことで、差し引きプラスとなる可能性もある。

そのため、これら国内の要因だけを見れば、市場の混乱さえ収まれば、むしろ日銀が利上げを継続する確度は上がったという見方もできる。

米国経済の減速は不可避、ドル円相場は円高方向へ

ただし、米国経済の行方については、引き続き注意が必要である。米国ではインフレ抑制のため景気減速覚悟の金融引き締めが続いているが、今後、景気が一段と減速し、インフレの落ち着きが確認されれば、利下げ開始が確実である。

問題は、景気減速が緩やかなもの、いわゆる「ソフトランディング」にとどまるのか、景気が急減速する「ハードランディング」となるかである。

現時点では当社を含む多くがソフトランディングを予想しているが、その場合でも利下げは行われ、米国の長期金利は低下する。一方で日本の長期金利は上記の通り利上げに伴って上昇傾向が見込まれる。そのため、日米の金利差は縮小、ドル円相場にドル安円高圧力がかかることは間違いない。

もちろん、米国経済にはハードランディングのリスクも残る。その場合は、急速にドル安円高が進むことになろう。いずれにしても、今後、ドル円相場がこのまま150円を超えて再び円安傾向になるとは考えにくい。

堅調な米国景気の拡大に牽引されたドル高円安の流れはすでに止まった。今後のドル円相場は、年内にも1ドル=130円台に向けて円高が進むと考えておくべきだろう。

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