植田総裁は、会合後の記者会見で、「円安が物価に与える影響は企業の価格設定行動の変化により以前よりも強まっている」、つまり円安が国内の物価に反映されやすくなったと説明、最近の円安進行を物価の上振れリスクとして認識、利上げの理由の一つにしたと明言した。このことは、これまでの「日銀は円安を放置する」という市場の見方を一変させた。

第二に、今後も利上げを続ける方針を示したことである。

植田総裁は「経済・物価情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」とし、一部で都市伝説のように信じられていた政策金利「0.5%の壁」論を一蹴、順調に景気が拡大すれば来年にも政策金利を0.5%超に引き上げる可能性を示した。

こうした日銀の姿勢は、そもそも利上げを見送るだろうとの見方が大勢だったこともあり、市場参加者に強いメッセージとして伝わった。その結果、大幅な円安修正は日銀の利上げによるところが大きい、別の言い方をすれば、円高急進の張本人は日銀だ、という評価を受けたのであろう。

木製ブロックに円マークとドルマーク
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足元では再び円安傾向に

ただ、ドル円相場は、8月5日の141円台を一旦の円高のピークとして、その後は円安方向に戻しており、本校執筆時点の13日時点では概ね1ドル=147円台で推移している。

第一の要因は、米国の行き過ぎた利下げ観測の修正である。将来の金融政策を織り込んで変動する長期金利(10年国債利回り)の動きを見ると、景気に対する悲観的な見方が極まった8月5日には3.8%割れの水準まで低下したが、その後は4%近くまで水準を戻している。

第二の要因は、日銀の将来の利上げペースが弱まるのではないか、との観測である。今回の大幅な円安修正は、輸出企業の業績悪化懸念という形で株価の大幅下落につながった。

日経平均株価は、日銀決定会合2日目の7月31日には、寄り付きの3万8141円から利上げ発表後に急伸し3万9102円の高値で引けたが、その後、専ら米国経済の先行き懸念によるドル安円高の加速と米株価の下落によって下落、8月5日の大暴落に至った。

しかしながら、市場では日銀の利上げ継続姿勢が株価暴落の原因だったとの見方が根強く、その修正を迫るムードが強まった。

そうした状況の中、日銀の内田副総裁は8月7日の講演において「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」としたうえで、「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要がある」と利上げに対して慎重な姿勢を示した。

これに対し多くの市場関係者は日銀のスタンスがハト派に転換したと受け止め、追加利上げが遠のくのではないかとの観測が強まり、ドル円相場は144円台から147円台へ大きく円安方向に振れた。