怪談の人気が高まっている。なぜ人は「怖い話」にひかれるのか。怪談師としても活躍する作家の川奈まり子さんに、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。
川奈まり子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
川奈まり子さん

なぜいま「怪談ブーム」が起きているのか

――怪談を語るYouTubeチャンネルの動画総再生数が1億回以上のコンビがいたり、全国各地でイベントやライブが行われているなど、最近、怪談がブームになっていると言われています。

個人的には、怪談関係の出演依頼が爆発的に増えたことから最近の「怪談ブーム」を実感しています。

きっかけはコロナ禍だったと思います。コロナ禍では、ライブなどのリアルイベントが開催しにくくなりました。その代わりに勃興したのが、配信イベントや配信番組です。

怪談はひとりでも配信できるし、視聴者もひとりで楽しめる。YouTubeやTikTokなどのSNSと非常に相性がよく、コロナ禍のライフスタイルにもマッチしていました。

怖い話が好き、あるいは不思議な体験をしたという人はどんな時代にも必ずいます。

そんな人たちがみんな、SNSの普及によって怪談にアクセスしやすくなったのです。

その結果、怪談にかかわるコンテンツを配信したり視聴したりする人が10代、20代の若者にも増えて、幅広い年齢層のファンを獲得し、怪談シーンが盛り上がりました。

私が人前で怪談を語りはじめたのは、10年ほど前のこと。

当時の怪談シーンには10代で怪談を語る人はまずいませんでしたし、そもそもプロの怪談師も数えるほどで……。怪談の集まりといえば、怪談愛好家の主催者が貸し会議室や居酒屋などを借りて、数人から多くても20~30人で行う怪談会が大半でした。

100人以上を集客できる怪談会は珍しく、ましてや500人以上が入れる会場が満席になるイベントとなると、稲川淳二さんの「怪談ナイト」くらいのものだったでしょう。

「素人に毛が生えた怪談」の魅力

実はその頃の怪談イベントは主催者や怪談師だけではなく、参加者をふくめてみんなで車座になって怪談を語り合うような、素朴な集まりがほとんどだったんです。

それが、いまや500席以上の大ホールで怪談イベントを行い、しかもそのチケットが即日完売するほどの怪談師も1人や2人ではありません。

怪談の裾野が広がっていくなかで、大きく変わったなと感じるのは、ファンや視聴者の方々が怪談を話芸のひとつとして捉えるようになったこと。

これまで怪談は話芸としては認められていなかったんですよ。

そもそも“素人に毛が生えた怪談”が怪談会の魅力のひとつでもありました。

不思議な体験をしたり、知り合いに怖い話を聞いたりしたことがない人はいないはずです。話そうと思えば、誰もが怪談を話せるわけでしょう。

だから、噺家さんの落語や、講談師さんの講談のように確立された話芸ではなく、話芸未満のカジュアルトークで、素人に毛が生えた程度の物好きが怖い話をする――それが一般の方がイメージする怪談でした。

けれども、コロナ禍に怪談を語る人が一気に増えて、切磋琢磨するなかで、怪談が話芸として磨かれていった。コンテンツの数が増えるのと比例して、怪談師の話芸も、怪談のクオリティも上がっていった。こうした流れが、いまの怪談ブームを支えているのです。