お客に「興味の種」を蒔き続ける
店舗での取材中、岩崎さんが買い物客に話しかけている姿をたくさん見た。
「この味噌、おいしいでしょ。手作りで添加物ゼロだから身体にもすごくいいんだよ!」
「このイギリスビールは、1700年代に創業した当時と同じ井戸水を使ってるんですよ。出来上がったビールは今も馬車で配達してるんだって!」
声掛けは、商品のポイントをわかりやすく伝える感じだ。ちょうど「ねぇねぇ聞いて、これってね」と誰かに教えたくなる内容が多い。
それに対しお客さんも「おすすめされて買ってみたら本当においしかったわ」「これリピートしてるの」と言葉を返していた。
「ほとんどのオーガニック商品は僕が生産地に実際に足を運んだり、仲間とのつながりでセレクトしたりしたものです。話そうと思えばいくらでも商品について話せますよ。全部をみんなに話す必要はないけど、“興味の種”を蒔き続けている感じかな」
「海洋プラスティック問題に挑む塩職人が作った天然塩」など、商品ができた背景にはすべてストーリーがある。チラシや店頭での声掛けを通じて、商品情報を伝えることには手を抜かなかった。
「一緒に働きたい」という若者も現れた
店内で作るお惣菜には、棚に並んでいるのと同じ無添加調味料を使うことにした。食べて違いを実感する人も多く、オーガニックについて「よくわからない」と感じる人の入り口にもなっている。淡路島の天然塩を使った「うましお唐揚げ」は店一番のヒット商品だそうだ。
どんなに忙しくても岩崎さんは店頭でお客さんと話す時間を大切にしている。「知ってもらう」「実際に違いを感じてもらう」このサイクルを回すことで、徐々にオーガニック商品を手に取る客が増え始めた。
一方で、継業前から店に置いていた商品も引き続き置いている。「買い物は投票と一緒」と考える岩崎さんが重視したのが「選択肢があること」だからだ。
「何が良い、悪いではないんです。自分が何にお金を払っているのかをきちんと知って、自分で考えて選ぶことが大切なんだっていうことが伝わればいいなと思っています」
誰にとっても買い物しやすい店づくりを徹底した結果、購入商品の幅が広がったことで客単価が上がり、店の経営にもプラスに働いた。以前はほとんど来なかった若い買い物客が増え、時には東京からも多くの観光客が訪れるようになった。岩崎さんの熱意に触れ、「一緒に働きたい」と徳島市内から移住してきた20代のスタッフもいる。